すっかりブログでの紹介が遅くなってしまった。書評を書こうと思いつつ、日々の雑事にかまけて後回しにしてしまっていた。何故、このタイミングでこの書籍を紹介しようかと思ったかというと、とある社員のインタビュー記事を目にしたからだ。
【山田祥平のRe:config.sys】【番外編】世界最軽量「Let'snote RZ4」開発者インタビュー ~軽くするためにファンを搭載、実は「VAIOを超えたかった」 - PC Watch
ちなみに、このインタビュー記事自体、大変おもしろい。世界最軽量の10.1インチノートパソコン(しかもタッチつき)の開発担当者である、星野氏のインタビューだ。745gというのは驚異的なスペックである。まずこちらの記事をご一読頂いたい。以下、ネタバレ注意である。
星野氏の堅実な仕事ぶりを伺わせるインタビュー
このインタビュー記事では、星野氏が堅実で奇を衒わない仕事をされていたことが、端々から感じ取ることができる。例えば特に次の部分などがそうだ。(引用)
――ボンネット構造を部位ごとに肉厚の異なる「VHフレームストラクチャ」を使うなど、さまざまな工夫で“グラム単位”の減量にチャレンジしたわけですね。
星野氏:軽くしても頑丈さは踏襲しなければなりません。ですから家の骨組みをヒントにして、部位によって厚みが異なるようにするといった工夫をしています。開発側としては「VH」といった名前なんてどうでもいいんです。とにかく最軽量を実現するために追求したら、できた結果に名前が付いただけなんです。名前を付けるのがおこがましいくらいですよ。たまたまここにたどり着いただけなんです。
派手な功績などには興味がなく、ひたすら目の前の仕事をうまくこなしたい。そんな姿勢を感じ取らずには居られないではないか。あえてガンダム風に言うなら
「名前なんて飾りです。エライ人にはそれが分からんのですよ。」
と言ったところか。まさに現場でひたむきに頑張る担当者である。
「それが分からん」エライ人
一方で、星野氏とまったく対照的なエライ人の存在も感じることができる。これを聞いたインタビューワーもなかなか曲者だと思うのだが・・・。(引用)
――結果として745g。なぜ800gでもなく、700gでもなく、750gを目標にされたのでしょう。
星野氏:開発を開始した時点で750gを目標にしました。その時点でソニーの「VAIO Pro 11」 がありましたが、そのタッチなしモデルが770gでした。だから、タッチパネルを付けてそこを超えるということを目指しました。もっとも、そのVAIOがなくても近い数字になったでしょうね。
実は、上層部に仕様を見せながら開発を続けるのですが、ドキュメントを見せるだけでは、上に行けば行くほど「700gを切れ」という意見が多かったのです。それで世界最軽量と言えるかどうかという不安があったようです。でも、実際にモックアップなどを作って触ってもらうと、「この大きさでこれなら、軽いと感じてもらえるはずだ」という意見に変わりました。
パナソニックは「TOUGHPAD」などの重厚なものしか作っていなかったので、この領域は経験したことがなく、そこに技術的な差がどのくらいあるのかも含めて暗中模索の開発プロセスでしたね。
スペックなんてただの飾りである。この上の人はそれが全く分かっていない。750gですら世界最軽量という世界である。軽量化を果たすためには様々な努力、そして技術革新が必要となる。それを顕著に表しているのが次の部分だ。
(引用)
やはり、この構造などは4年前は無理でしたね。なにしろ、こんなマグネシウム合金は鋳造できませんでした。ベンダーの技術が向上したんです。そういうタイミングも今回の製品に貢献しています。
星野氏が天板の構造を工夫しただけでなく、このような技術革新があったから、今この745gというスペックを成し得たものだということがわかる。
ところが!である。上の人はいきなり700gへ飛躍しろというわけだ。もちろんスペックがよく見れば見えるに越したことはない。だが、それが実現できるかどうかはまったく別の話だ。特にノートPCの重量を減らすといった課題は、物理的な限界にチャレンジするものである。物理的な壁は極めて超えることが難しい類のハードルである。もちろん将来的には700gを切るマシンが出てくる可能性はある。(というかそちらの可能性のほうが高い。)しかし製品化する上で大事なのは、現時点でそれが実現できるかどうかなのだ!
700gという突拍子もない数字を出すということは、そのような現場の勘所が全くないと言って差し支えない。ああ、なんたるクソ上司なんだ!!と思わずには居られない次第なのである。
リーダーに求められることとは何か
私の勝手な推測ではあるが、恐らくこの「700gを切れ」と言った上役の面々は、現場のことが一切分かっていない。それどころか、ノートPC事業において、何をどうすれば良いのかすら根本的に分かって居ないのではないだろうか。現場や製品に興味すらないかも知れない。そのような状態で、事業を率いる責任者としての職責を果たせるのだろうか。もしトップがそのような状態なら、会社が傾いて当然である。もしこの記事を読んでいるあなたが、事業を任され、部下を持つ責任ある立場、つまりリーダーであれば、ぜひ書籍「リーダーにカリスマ性はいらない」を読んで欲しいと思う。そうすれば、今後何をすべきかが、今よりはよく見えてくるはずだ。
下記は書籍からの引用である。
(引用:22ページ)
リーダーの第一歩は「自分は現場を何もわかっていない」と自覚することだ。だからこそ、自分で足を運び、現場に話を聞きに行かなければならない。
まさにその通りである。パナソニックの上役は、たとえノートPCに興味がなくとも、少なくとも現場で話を聞いていれば、700gという数字は出て来なかったはずだ。
書籍では、リーダーは現場を知らなくても良いと言っているわけではない。現場を知らないからこそ、リーダーは様々な情報を収集するべく、現場へ行くべきだということを論じている。そこから、事業が成功するための糸口が見えてくるのだと。
誤った固定観念を解きほぐす
書籍「リーダーにカリスマ性はいらない」は、そのタイトルからしてそうであるように、ある種の常識や固定観念といったものに対するアンチテーゼがたくさん登場する。例えば次の箇所などもそうだ。(引用:76ページ)
08 リーダーはブレークスルーを狙うな
「ビジネスにおいてブレークスルーが起きる時、そこには物凄い『思いつき』がある」というのは幻想だ。リーダーが力を入れるべきなのは、素早く軌道修正を行いながら基本的なビジネスプランを実行していくことだ。
凄い結果を残したリーダーはブレイクスルーを狙い、それをことごとく成功させてきた。そんな先入観はないだろうか。しかし、著者はそのような先入観に対して、分かりやすい言葉でそれが間違いであることを諭してくれる。しかも平易な言葉ですっきりとまとめてくれるので、非常に読み進めやすい。
(引用:78ページ)
たしかにぼくのつくったプランは、「当たり前」のことばかりが書かれた平凡なものだった。いま考えてみると、そのバイスプレジデントは「ビジネスプランには何か驚きがあるような内容が最初から入っているべきだ」という考えを持っていたのだろう。
(中略)
しかし、ぼくがつくったこのビジネスプランは、1年後には事業売り上げを30倍の規模にまで伸ばすことになった。まさしくブレークスルーを起こしたのである。
つまり、ブレークスルーはあくまでも結果だ!ということである。やるべきことをこなし、それが積み重なった結果が、後から振り返って見てみれば、ブレークスルーだったということなのである。
地味な努力の積み重ねが成功をつかむ
凄い成功を収めた人は、何か凄い能力やひらめきを持っていたのだろう。人はついそのように考えてしまいがちである。だが、事実はそのような先入観とは異なり、実際のところ成功にショートカットはない。例外はもちろんあるが、今現在成功しているほとんどの人は、日々の地道な努力の積み重ねによって成功を掴んだ人たちだ。安易なひらめきやブレークスルーで成功をつかみとった人はほとんど居ない。何に努力したかはもちろん違うが、目の前のやるべきことに対して、ひたむきに取り組んだ結果、今の成功があるのだと思う。やるべきことをただひたすら取り組むという意味では、私は漫画「はじめの一歩」が大好きである。強い選手ほど基礎鍛錬を怠らない。その蓄積が成功を、勝利をもたらすのである。(例外はブライアン・ホークだろうか。しかし、彼も無残に敗れてしまった。)
では、リーダーにとって日々やるべきこととはどういったことだろうか。その疑問に答えてくれるのが、この書籍「リーダにカリスマ性はいらない」なのである。
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