先日開催されたWHPSC(World Human Powered Speed Challenge)において、自転車による平地での最高速度の世界記録が更新されたそうだ。実に時速144.17Kmにも達したのである!!高速道路を走る自動車をゆうに凌ぐ速度であり、もしこんなものが公道を走ろうものなら、お巡りさんも真っ青のスピード違反である。以下の動画は144.17Km/hのものではないが、WHPSCにおいて、同じ人が2日前に走ったときのものであり、記録は142.04 Km/hとのことだ。
いかがだろう。風を切る音が既に我々が普段想像する自転車とは程遠いのだが、これは間違いなく、まごうことなき人力(動力を人力に頼った)自転車なのであって、ロケットか何かの類ではない。
なぜこの自転車がこんな形をしているのか。その理由はズバリ、空気抵抗を極限まで減らすためである。空気中を移動する物体は、その速度が上がれば上がるほど、空気抵抗が増すことになる。従って、どれだけ速度を上げることができるかは、まさに空気抵抗との戦いであり、それを2016年に人類が持つ科学力によって極限まで突き詰めた形状が、この動画の自転車なのである。
この自転車は競技用に最適化されたものであり、このような乗り物が公道を暴走するのではないか??という心配は一切無用ないので安心して欲しい。発進、停車するときすら一人ではできず、人の補助が必要なほどである。その様子は以下の動画を見れば理解していただけるだろう。
この自転車は空気抵抗を減らすために車体はカウルで覆われ、窓すらもなく、運転手は車内のモニターを見ながら走る。144Km/hもの速度を出す必要があるため、ギアはとても大きい。シートポジションは空気抵抗を減らすためにリカンベントであり、空気抵抗シミュレーションによって徹底的に抵抗の少ない形状にし、ライダーの体型に合わせて極限まで小さくし、さらに軽量化のためにフルカーボンで仕上げた逸品となっている。さらに中身を詳しく知りたい人は、ぜひ下記の動画を見て欲しい。相当な労力と資金がつぎ込まれた機体であることが分かる。
なお、WHPSC 2016では、NHKの凄技で詳解されたチームSuper Ketta 162の小森選手も参加していたのだが、記録は132.01Km/hとなっており、世界記録には及ばなかったようである。とはいえ、リザルトを見ると、今大会では2位の記録である。1位のTodd Reichert選手が群を抜いているだけであり、小森選手の結果は誇るべきものだと言える。むしろ初参加でこの記録は大健闘と言って良いのではないだろうか。チームSuper Ketta 162の機体と小森選手は素晴らしかった。資金も労力もかなりつぎ込まれたことだろう。ただ、ライバルはさらにウワテだったというだけなのだ。今後も継続してWHPSCに参加するのか、それとも一度きりになるのかはわからないが、個人的にはぜひとも継続してもらいたいものである。
このような偉業を見て思うことは、コンピュータが無ければ決して人類はここまで到達出来なかったであろうということである。空気抵抗シミュレーションだけでなく、素材の開発や加工技術などなど、コンピュータの支援無しには成し得ないことばかりだ。歴代の世界記録を見ると、進化の速度は極めて速く、しかも着実に進化している様子が伺える。科学技術の進歩は、コンピュータによって加速しているという思いに至らずには居られない。そして、いちコンピュータエンジニアとして、このような偉業との(凄く凄く遠いものではあるけれども)つながりを感じることが、明日を生き抜くための活力を与えてくれるのである。
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