Nokia E7
何もかもが最悪である。タイミングも最悪だ。今週は、まずNokiaにとって最高のニュースが発表された。Symbian^3 OS採用のフラグシップモデルであるNokia E7の出荷が開始されたというニュースだ。Symbian ^3は同OSにとって、前作S60からのメジャーバージョンアップであり、昨年10月にSymbian ^3を搭載したモデルNokia N8が始めてリリースされた。N8はiPhoneのようなタッチスクリーンのデバイスであり、マルチタッチにも対応した先進的なUIに仕上っていた。このビデオはN8のプロモーションビデオであるが、Music PlayerのUIの滑らかさなどは筆舌に尽くしがたい。だが、N8はあくまでもマルチメディアを強化したモデルであり、Symbianのファンであれば誰しもがキーボード付きのハイエンドモデルを望んだことであろう。そう、それがNokia E7だ。本来、E7は昨年12月に出荷する予定であったが、再三に渡って延期された。多くのファンがリリースを待ち望み、そして延期の知らせが入るたびに失望し、ようやく待望のリリースのニュースに沸いた。
そして、週末にはWindows Phone採用のニュースに落胆したのである。
正直な株価
全世界で多くの人が、今回の発表に対して失望している。それを敏感に反映しているのが株価だ。出展:Google finance
ニュース発表直後の下げっぷりが見事である。株価は7ユーロを切ってしまった。それほど多くの人が、直感的に今回の発表に対して懸念を抱いていると言えよう。Nokiaの経営陣はこのことを重く受け止めるべきだし、株主は経営者に対して怒っていい。「俺の持ってる株の価値を下げやがって!」と。
Symbian ^3、そしてMeeGo
今回のニュースが発表されるまで、Nokia復活のシナリオは完璧に見えた。特にSymbian ^3からMeeGoへつなぐお膳立てはバッチリだった。その中核を担うのがQtだ。Symbian ^3にはQtが搭載されており、開発者はお馴染みのQtを使ってアプリを開発することが出来るからだ。MeeGoにもQtが採用されており、アプリケーション開発者は苦労することなくMeeGoへの移植が可能になるはずだった。また、Symbian ^3はオープンソースであるということも忘れてはならない。(2010年2月にオープンソース化された。)オープンソースであるが故に、開発者にとってはまさに理想的なプラットフォームであったはずだ。だが、それももはや過去形で語らねばなるまい。だが、もちろんSymbianとWindows Phoneには何のつながりもない。Nokiaは既存のSymbian開発者を置き去りにすることになるのだ。
Burning Platform?
先日、Nokia CEOから社員へ宛てた戦略メモが流出した。そこでは、Symbianを「burning platform」を称して、「Symbianはもうダメだ!もう海に飛び込む英断をするしかないんだ!」という旨のことが綴られてあった。果たして、本当にそんなにヤバいのだろうか。シェアは低下しているとは言え、単体のメーカーとしてのNokiaのシェアは圧倒的だ。2010年度は残念ながらAndroidに出荷台数で負けてしまったが、出荷台数ではNokia/Symbianはまだ他を圧倒している。
出展:Android、Symbianを抜いて世界スマートフォン市場でトップに――米Canalys調査 - ITMedia
注目に値するのは、出荷台数ではまだ伸びているということだ。シェアは確かに相対的には低下しているかも知れないが、それはAndroidの成長がすご過ぎるだけなのだ。Symbianは前年比30%の成長率である。一体何を焦る必要があるというのだろう?
筆者には、経営者がビビって判断を誤っただけのようにしか見えない。しかもCEOのElop氏は2010年9月に就任したばかりであり、前述のような戦略を理解していなかった可能性もある。ここまでの「英断」をするには、時期尚早ではないか?
今の数字だけを見て経営判断するなら誰にだって出来る。大事なのは将来へのシナリオだ。苦しい期間を耐えぬくというのも立派な戦略であるはずだ。それが未来に繋がるならば!
氷の海に飛び込んで自殺するよりは、踏みとどまって火を消し止めるほうが生き残れるということもあるのだ。
疑惑
引用:Nokiaが「Windows Phone」採用を発表 - 「Androidでは差別化ができない」とElop氏しかし今回、Windows Phoneの採用を発表。Elop氏はWindows Phoneを「主要なスマートフォン戦略」に採用するまで、数カ月かけていくつかの選択肢を検討したと説明しており、Samsung、Sony Ericssonなど多数のメーカーが採用するAndroidについては、差別化が難しく、コモディティ化のリスクなどの理由から選択しなかったとしている。
差別化。これほど便利なマジックワードは他にないな・・・というのが、今回のElop氏の発言を受けた正直な感想だ。他と違えばそれで良いのか?違うというだけならSymbianで良かったはずではないのか?十分に差別化が出来たのではないか?
Windows Phone採用までに至る判断を振り返って、氏は「複雑なジャーニーだった」などと表現しているが、正直なところ、筆者には出来レースのようにしか見えない。本当にごく個人的な意見なので真に受けないで頂きたいのだが、氏が2010年9月に就任した当初からWindows Phoneの採用を考えており、数カ月間そのための理由付けを考えていたとしか思えないのだ。そもそも、他のメーカーが作っているという意味では、AndroidもWindows Phoneも違いはない。Androidで差別化が出来ず、Windows Phoneで差別化が出来るという論理的な理由はないのだ。SamsungだってHTCだってWindows Phoneデバイスを出せる。差別化などと言うのは、さぞもっともらしい説明をするときの都合の良いマジックワードなのだ。
そもそも、差別化が出来る要因は「優れている」技術でなければならない。果たしてWindows Phoneは優れているのか?
引用:Windows Phone 7端末の出荷台数は150万台 - スラッシュドット・ジャパン
Microsoftが10月より順次発売しているWindows Phone 7搭載スマートフォンは、「発売後6週間で150万台の出荷が行われた」そうだ(ITmediaの記事)。
11月にはWindows Phone 7端末の在庫不足という話もあり、これだけを聞くと大人気のようにも聞こえるが、InfoWorldによるとそのうち実際に販売されたのは50万台で、残りの100万台は「まだ店頭の棚に残っている」状態だそうだ。
どう見ても売れ行きは好調ではない。2010年Q4では、マイクロソフトだけが出荷台数がマイナスになっており、これではどちらが本当のBurning Platformなのか分からない。現在の成長率だけを見れば、Windows Mobile/Windows Phoneは間違いなくSymbianより燃え盛っている。
かたやAndroidはというと・・・
引用:米MS、Windows Phone 7の出荷台数が150万台と公表 - マイコミジャーナル
米GoogleでAndroid開発責任者のAndy Rubin氏が12月初旬に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたカンファレンスで明かしたところによれば、1日あたり30万台のAndroid端末がアクティベーションされている状況だという。
市場の桁が違う。伸び盛りそのものである。どちらに手を出したほうがたくさん売れるか。そんなのは火を見るよりも明らかである。もちろん現状の市場規模だけで投資対象を判断するのは愚策であるが、2010年度のAndroidの成長率は600%以上であり、その勢いは当面衰えることはないことは誰にでもわかる。だったら差別化は出来なくても勢いに乗って売り上げを伸ばせば良い。他のプラットフォームへ手を出すなら、経営的には売れる方を選択するのが当然ではないか。NokiaがAndroid携帯を作ったら間違いなくたくさん売れたはずだ。そして経営を維持し、タイミングを見計らってMeeGoへ戻る。そういうシナリオでも良かったはずだ。
しかし何故、わざわざ売れ行きの芳しくない(さらに悪い)プラットフォームへ手を出したのか?
マイクロソフトがWindows Phoneで苦戦しており、新たなパートナーを求めていたのはごく自然なことだと言える。マイクロソフトにすれば、NokiaによるWindows Phone採用は大歓迎であろう。だが、NokiaがWindows Phoneへ手を出す理由は「差別化出来ないから。コモディティ化するから。」という理由では説明がつかない。そこへ来てElop氏の経歴である。氏はまだマイクロソフトを後にしたばかりだ。
筆者の脳裏に、よからぬ予測が渦巻くのであった。
5 コメント:
ノキアがどうなるってことより、シンビアンが無くなっちゃいそうなことの方がやだなぁ。
淘汰されるべき対象ってこともないしさ。
Qtどうなるんでしょうね?
> kingtoshさん
コメントありがとうございます。
Symbianはオープンソース化されているので、第三者が勝手にforkして継続したりすると面白いかも知れません。
> yamashitaさん、
コメントありがとうございます。
私も心配です。Qtの行く末。
MicrosoftのWindowsを家電の中心に据えるという構想と関係がありそうですね!マルチメディアを共有し、持ち出せるという点でiPhoneのような優位性を得ようと考えているのではないでしょうか??
Symbian好きだったのになー
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