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2011-02-16

9人の若い株主によるNokia革命計画 〜Nokia Plan B〜

9人の若いNokiaの株主と名乗る人たちが、Nokia Plan Bなるサイトを立ち上げ、今回のWindows Phone採用へ大きく舵を採った経営方針に対して、反対の意を表明している。株主にとっては、今回の経営判断によって株価が大きく下落したのであり、対策を求めるのは当然のことだ。ただ、Nokia Plan Bでは具体的な施策として、現CEOのElap氏をふくむ複数の経営陣の退任まで言及しており、内容が少々過激なものになっているのが興味深い。そして、「我々を取締役会の過半数にして下さい。改善してみせます!」と訴えているのだ。

基本方針

この若い株主9人の提案は実に興味深い。詳しいことはNokia Plan Bのサイトを見ていただくとして、大事なところを紹介しよう。Nokia Plan Bでは、基本方針と具体的な施策の、二段構成になっている。基本方針は短いので、下記に筆者の訳つきで引用しよう。

  • Return the company to a strategy that seeks high growth and high profit margins through innovation and overwhelmingly superior products with unrivaled user experience.
    筆者訳:会社を、イノベーションと圧倒的に優れ、比類なきユーザー体験をもたらす製品を通じて高い成長と利益率を追求する戦略へと回帰する。
  • Maintain ownership and control of the software layer of the Nokia products. Software is where innovation, differentiation and shareholder value can most easily be created.
    筆者訳:ノキア製品のソフトウェアレイヤーの所有権と支配力を維持する。ソフトウェアはイノベーションと差別化をもたらし、株主に対する価値が最も簡単に産み出すことができる。
  • Revamp hiring strategy to target the top young software talent from around the world. Only if Nokia is able to attract and keep the best talent in the industry it will be able to generate the level of innovation that is needed to achieve sustained growth and consistently high profit margins.
    筆者訳:雇用戦略を改造し、若く優秀な人材を世界中から募集する。ノキアが成長と高い利益率を維持するために必要な高いレベルのイノベーションは、業界で最良の人材を魅了・保有することによってのみ、達成できる。
  • Dramatically increase efficiency by eliminating outdated and bureaucratic R&D practices like geographically distributed software development and outsourcing.
    筆者訳:地理的に離れた場所で行われるソフトウェア開発やアウトソースといった、官僚的で時代遅れのR&Dの習慣を是正し、劇的な効率の改善をする。
  • Avoid at all cost becoming a poorly differentiated OEM with only low margin, commodity products that is unable to attract top software talent and cannot create shareholder value though innovation.
    筆者訳:優秀なソフトウェア開発者を惹きつけ、イノベーションを通じて株主に対する価値を産み出すことが出来ないため、差別化要素が乏しく低いマージンしかもたらさないOEMやコモディティな製品に対するコストを全てカットする。

筆者の雑感としては、非常に真っ当な意見のように聞こえる。ソフトウェアこそが利益の源であるという主張は、アップルの高い利益率を見れば一目瞭然である。携帯市場だけでなくPC市場もそうである。OSを提供しているマイクロソフトのほぼ独り勝ちであると言えよう。もちろん、そのソフトウェアが高いシェアを持っているというのが高い収益を上げるための前提条件になるが、インストールベースだけならSymbian OSは抜群であるのは言うまでもない。

また、基本方針では経営の効率化についても触れられている。「官僚的で時代遅れのR&D」という部分には、多くの日本企業にも思い当たるフシがあるのではないだろうか。もしかすると、本ブログの読者の型の中にも「ギクッ」とした方がいらっしゃるかも知れない。ソフトウェア開発をアウトソースしてしまって、自社には何も出来ない官僚的な高給取りだけが残るというのは、日本でもよく見かける産業構造である。日本だけでなく、北欧でもそういう問題で苦しんでいたのかと思うと非常に興味深い。

具体的な施策

基本方針を達成するための具体的な施策も興味深い。以下に文頭の太字部分(最後の項目は太字がなかったので先頭部分)の引用と、筆者のによる翻訳を掲載しておく。

  • Immediate discharge of Stephen Elop from his duties as President and CEO of the company.
    筆者訳:Stephen Elop氏を同社のCEO兼社長の責務から即刻解雇する。
  • Restructure alliance with Microsoft as a tactical exercise focused primarily at the North American market.
    筆者訳:マイクロソフトとの提携を見直し、主に北米向けの市場へフォーカスした戦術的活動とする。
  • MeeGo will be Nokia’s primary smartphone platform.
    筆者訳:MeeGoをノキアの将来的なメインのスマートフォンプラットフォームとする。
  • Increase the lifespan of Symbian to a minimum of 5 years.
    筆者訳:Symbianを最低でもあと5年以上延命する。
  • Developer strategy based on Qt with primary focus on MeeGo, but providing a credible developer story for Symbian.
    筆者訳:開発者向けの戦略を、MeeGoへフォーカスするQtに基づいたものとする。ただし、Symbian向けに信ぴょう性のあるストーリーを準備する。
  • End of distributed R&D.
    筆者訳:分散型R&Dの廃止。
  • End of R&D outsourcing.
    筆者訳:R&Dアウトソースの廃止。
  • Leadership team shakeup.
    筆者訳:リーダーシップチームの改革。
  • Aggressively recruit young software talent from top universities.
    筆者訳:優秀な大学から、若いソフトウェア開発者を積極的に採用する。
  • Specific further actions related to the S40 platform.
    筆者訳:S40プラットフォームを何とかしなきゃね。

傍目から見ているせいかもしれないが、Nokiaの現状をよく反映した、とても真っ当で適切な施策であるように思う。R&Dの脱官僚的構造などは非常に根が深い問題であり、会社を長期的に運営していくためには必ず解決すべき問題であったはずだ。少なくとも、Windows Phone採用と言った、表面的な小手先の対策よりも、ずっと重要で難しい課題であるのは間違いないだろう。

果たして成功するか?

Nokia Plan Bでは、「2011年5月3日に開催される年次株主総会で勝負かけるんで支持よろしく!」という旨のことが書かれている。株主や機関投資家への呼びかけの他、そうでない人もブログやTwitter、Facebookなどで応援してねということらしい。果たしてその取り組みは上手く行くだろうか。ノキアの将来は変わるのだろうか?

もし仮にこれが3年前の出来事なら、このような計画を発表したところで一笑に付されるのが関の山だっただろう。だが、時代は変わった。我々は、Facebookをはじめとしたソーシャルメディアの活躍によって、エジプトというひとつの国家で革命が起きたのを目の当たりにしたばかりである。Nokia Plan Bのサイトでは、Facebookの「いいね!」がすでに3000以上、そしてTwitterへの投稿が1000以上行われている。もし、Nokia Plan Bがエジプトと同じようにソーシャルメディアの力を活用して彼らが大衆を味方につけたら・・・。もしかすると一縷の望みはあるかも知れない。

いずれにせよ、どう転ぶかは5月3日にはっきりする。その日がノキアにとって運命の別れ道になることは間違いないのである。

追記(2011/02/17)
早々に計画が頓挫してしまった模様。

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