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2009-04-25

中国によるソースコード開示要求についての考察 - その2

中国によるソースコードの開示要求に従ってソースコードを公開しても、「知財」と呼ばれるもの、即ち「著作権」「特許」「商標」のいずれについても失われることはないということは、昨日の記事で書いた通りである。権利という側面だけから見ると、諸外国の企業は失うものがないどころか、逆に中国企業が深刻なダメージを受ける可能性が高い。(こっそりGPLのソースコードを流用している企業はたちまちビジネスを停止する羽目になるだろう。)

ソースコードを公開することによる真の問題は、この辺のニュース記事に書いてあるような「知財の流出」ではない。「著作権」「特許」「商標」のいずれについても、ライセンスを与えて使用許諾をしない限り、第三者はそれらの権利を利用することは出来ないからだ。仮に公開されたソースコードを勝手にコピーして自分の製品に組み込めば、それは著作権法違反になってしまうだろう。そのような製品は、中国国内での販売ではダメージを受けないかも知れないが、欧米諸国や日本市場では「著作権法違反」が厳しく追及され、ビジネスを展開することは出来ないと考えられる。

これはもちろん、中国企業の製品もソースコードを公開しているという前提での話である。中国企業の製品についてソースコードを公開しなくても良いのであれば、それはフェアではない。もし中国が求めるものがそのような一方的な要求であれば、諸外国は逆の要求、つまり中国企業が海外へIT製品を販売する際にソースコード開示を求める必要がある。そうすれば、「著作権」および「特許」について、違反があるかどうかをチェックできるからだ。

「著作権」や「特許」の戦いになれば、先にそれらの権利を持っている側、つまり中国以外の企業が圧倒的に優位である。むしろ中国企業が、すでに存在する「著作権」や「特許」を全て避けて新しい製品を出すというのは不可能に近いことだろう。そのような事態になれば、中国のIT業界は深刻なダメージを受けてしまう羽目になる。俺の目からすると、どうにも分の悪い戦いを挑んでいるようにしか見えないのである。

ソースコードの開示でむしろ問題になるのは、「知財の流出」ではなく「不正利用」ではないかと思う。(ソフトウェアの不正利用は俗に「海賊行為」と呼ばれているが、それは著作権を保有する企業側による行き過ぎたプロパガンダであると考えているので俺はそのような表現を使わない。コンピュータ上でバイナリデータをコピーする行為と、ソマリア沖で起こっているような略奪、殺人などを伴う真の海賊行為を同等と見なすのはおかしな話であるからだ。不正利用もしくはライセンス違反が適切な表現だろう。)もし、ソースコードを全ての人が無償で手に入れられることが出来てしまったら、誰でもそのソフトウェアを自分でビルドして、無償で利用出来てしまうことになる。つまり、ソフトウェアライセンスによってお金を儲けるという行為が出来なくなってしまうわけだ。「知財」が流出することはないが、肝心のライセンス収入がなくなってしまう。それが欧米企業にとって最も深刻なダメージとなるだろう。ソースコードがあればWindowsのアクティベーションも無意味だ。ソースコードがあればそれを改造して、アクティベーションを無効にすることが出来てしまうからだ。

中国ではただでさえソフトウェアの不正利用が問題になっている。もしソースコードの開示が「全ての人に対して」行わなければならないとしたら、不正利用の問題を助長してしまうことになるだろう。

ただし、マイクロソフトでは現時点でもソースコードを一部の人を対象に公開しているのをご存じだろうか。詳細は「マイクロソフトソースコードアグリーメント」でググってもらいたいが、ソースコードへの限定的なアクセスであれば既に行っている。もし中国が求めるソースコードの開示が、例えば政府機関などへの限定的なものであれば、ライセンスビジネスへの影響はさほどないかも知れない。何故ならば、現時点で「マイクロソフトソースコードアグリーメント」によってビジネスへの悪影響があるとは考えられないからだ。ニュースを見る限りでは、政府機関だけへの公開のようなので、マイクロソフトなどにとっては「既に限定的なソースコードの公開はやってるよ!」という話である。つまり、限定的なソースコードの公開であればビジネス上はそれほど問題にはならない。

もう一つ気になるのは、Webアプリケーションが中国へ出荷する製品に含まれるか?ということだ。もしWebアプリケーションがこの規定から除外されるのであれば話は早い。中国向けにはWebサービスだけを販売すればいいのだ。それ以外のIT企業は中国市場から撤退するかソースコードを公開するかを迫られるので、Webサービス以外のビジネスは鈍化することになるだろう。そうすると、市場がWeb企業にとって追い風になるというバイアスが掛かってしまうという問題が生じる可能性がある。それはそれで波紋を呼ぶことになるだろう。

まとめ
  • ソースコード公開によって「知財」の流出はない。
  • 諸外国は中国企業にソースコードの公開を求めるべきである。
  • ソースコードが一般公開されると、ソフトウェアの不正利用を助長する可能性がある。
  • 限定的な公開であれば、ビジネス上はそれほど問題にはならないだろう。
  • ソースコード公開義務が課されれば、Web系企業が有利になる可能性がある。

今後の展開から目が離せない。

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