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2010-09-22

「java-ja 第1.9.2回 チキチキ ライセンスって何ですか?」に参加した。

先日、「java-ja 第1.9.2回 チキチキ ライセンスって何ですか?」という勉強会に参加してきたのでレポートしたい。宣伝文がやたらとお茶目(タイトルも?!)だが、その日の雰囲気も負けず劣らず楽しいものであったと思う。ライセンスというお固い議題なのに!!である。ちなみに、本ブログでは常々ライセンスについて色々と綴っているが、今回は基本的に聞く側として参加した。(最後にちょっとだけマイクを握らされて(?)しまったけれども。)

講師を努めて頂いたのは「ソフトウェアライセンスの基礎知識」の著者である可知 豊氏。

可知氏のブログ: Placebo Effect

今回の発表資料はこちらにあり、CC-BYで利用可能になっている。(CC-BYはクリエイティブコモンズライセンス- CCL -のひとつである。CCLについては本ブログでも何度か紹介したので、忘れた人はぜひ復習して欲しい。 *1 *2 *3BYなので、オリジナル著作者の表示さえしておけば、自由に引用したり加工したりして良い。社内勉強会などでぜひ利用しまくると良いだろう。

この資料は、可知氏の著書である「ソフトウェアライセンスの基礎知識」のダイジェスト版のような感じに仕上がっている。著書の要点を抑えてあるような感じだ。もしこの資料を社内勉強会などに利用する場合、発表者は「ソフトウェアライセンスの基礎知識」を熟読しておくと良いだろう。これは気軽に読めてよくまとめられた良書である。

利用と使用

自身の不勉強さがいきなり露呈してしまうのだが、実は「利用と使用」ということについて意識をしたのは初めてであった。著作権を英語で言うとCopyrightであり、これを直訳すると「コピーする権利」となる。つまり、法律によって著作権が守られるのは著作物をコピーする行為だけであり、使用については一切の制限を設けることが出来ない。いくら映画を観ようが、音楽を聽こうが、プログラムを実行しようが、本来は誰もそれを制限することは出来ないのである。その理屈で行けば本屋で立ち読みするのは著作権法違反にはならない。読んでいるときにページを折ってしまうなどの損傷を与えた場合には弁償しなければいけないだろうが、それでも著作権法的にはシロなのだ!!だったらどんどん本屋では立ち読みをしようではないか!!(もちろん良いと思った本は買うべし。そしてくれぐれも汚したり破いたりすることなかれ。)逆に、図書館に置いてあるコピー機でコピーをとると著作権法違反となるだろう。

スライドより抜粋)

ソフトウェアライセンス

可知氏の説明によると、ソフトウェアライセンスとは「本来は完全に自由が認められている"使用"を一部制限する代わりに、"利用"出来る範囲が広がること」であるという。それによりユーザーの利便性が向上しつつ、ベンダー側にとっては製品をコントロールしやすくなる。使用に課される制限とは、例えばJavaのライセンスに組み込まれているように「原発で使用してはいけない」だとか、「ベンチマーク結果を勝手に公表してはいけない」といったものが含まれる。

スライドより抜粋)

また、オープンソースライセンスとは"使用"に一切の制限を課さず、なおかつ一定の条件を満たすことにより"利用"もかなり自由に出来るような仕組みであると解釈できる。

ちなみに、数あるオープンソースライセンスの中でも最上のものはGPLである。GPLはユーザーが使用する上で弊害となる一切の制限を課すことを認めないライセンスであり、特にGPLv3ではDRMの排除も行なっている。ユーザーがコンピュータシステムを使用する権利を最大限守ってくれる、非常に素晴らしいライセンスなのだ!!もしGPLと非GPLのソフトウェアが選択肢に上ったら迷わずGPLを選択するべきだし、ソフトウェアを公開するときは極力GPLv3を使うべきなのである。

GPLとFUD

GPLは素晴らしいライセンスであるが、GPLほどFUDに苦しめられてきたライセンスは他にないだろう。代表的なものは「GPLは感染する」という類のもので、酷い場合には「GPLのソフトウェアをインストールしたらそのOSにインストールされているソフトウェアはすべて直ちにGPLにして公開しなければならない」というものまである。しかしながら、それらは意図的にGPLのイメージダウンを図ったFUD(ないしはネガティブキャンペーン)であり、根も葉もないデマであるので注意が必要だ。コンピュータ技術者がそのようなデマを信じてはいけないし、オープンソースに携わる者であればそのような誤解を解く努力をするべきだろう。

可知氏曰く「そのようなFUDを最初に振りまいたのは某プロプライエタリソフトウェアベンダーのようだ、裏はとってないけどね!とのことだ。裏をとっていない情報を載せるわけにはいかないので、ここではどのベンダーがそのようなFUDを振りまいたかということについては触れないが、いずれにせよプロプライエタリソフトウェアベンダーがGPLソフトウェアをライバル視(敵視?)していたというのは想像に固くない。読者諸氏にはくれぐれもベンダーが自社の利益を追い求めるために振りまいたデマに振り回されないように心して頂きたいと思う。GPLを適用する必要があるのは、頒布する場合に限ってだけであり、インストールしたり使ったりするだけならライセンスを意識する必要はないのである。(最大限の理由が約束される=何をしても良い!ということだ。)

あなたはGPL派?それともBSDL派?

参加者の皆さんは、キレイに「GPL派」と「BSDL派」に別れていたように思う。BSDL派の主張で面白かったのは「GPL派の人は自分の書いたコードが大事なんだ。自分の子供のように思っている。だが自分はそうではない。自分にとってコードを書くというのは排泄行為のようなもの。未来の自分は今よりずっと効果的により良いコードが書けるんだ!だからGPLでそのコードを守ろうとは思わない。」というものだ。

なかなか強烈な主張であるが、「でもよく『あれどうやって書いたっけ』って言ってるよね」と突っ込まれて撃沈していたというオチつきであるから侮れない。そのうえ「それが肥やしになるんだよ」という誰うまコメントまで炸裂し、会場は異様な盛り上がりを見せたのであった。

どのライセンスを選択するかは、著者の思想やライフスタイルが色濃く反映される。もしあなたが自由を尊ぶ精神の持ち主であれば、迷わずGPLを選択すべきであろう。

吉岡さん・・・

GPL派の中で最も息巻いていたのがカーネル読書会でお馴染み、楽天株式会社で技術理事を務める吉岡 弘隆氏。「もっと自分の成果を大事にしろ」と繰り返しおっしゃってたのが印象的だった。かなり酔っ払っておられたようで、うまく伝わっていなかったようではあるけれども。まあ、しらふであればBSLD派の盛り上がりにも理論的な説得により対抗できたかも知れない。

なぜGPLを適用するべきか?

なぜなら、GPLは最高だからだ!

GPLこそ最自由。自由にコーディングできる文化を維持したければ、GPLの普及を促進するべきなのだ。

Rubyはライセンスも黒魔術

今回のjava-jaは第1.9.2回という、なぜか先日発表された最安定版のRubyとバージョンが同じであった。(ナイスセンス!)会場にはRubyにコミッタの方が数名おられ、Rubyのライセンス変更についての説明を聞くことができた。先日書いたRubykaigi2010のレポートではGPLからBSDLへ変更することなくBSDLなソフトウェアとのライセンスの互換性を部分的に解消する方法について説明したが、残念なことに、非常に残念なことに、RubyのライセンスはGPL互換のものからBSDL互換のものへと書き換えられてしまった。

そのことを示すのが下記の部分である。(http://archive.good-day.net/~w3ml/w3ml.cgi/ruby-changes/msg/17261より抜粋。)
--- COPYING.ja  (revision 29261)
+++ COPYING.ja  (revision 29262)
@@ -1,6 +1,6 @@
-本プログラムはフリーソフトウェアです.GPL (the GNU General
-Public License)バージョン2または以下に示す条件で本プログラム
-を再配布できます.GPLについてはGPLファイルを参照して下さい.
+本プログラムはフリーソフトウェアです.2-clause BSDL
+または以下に示す条件で本プログラムを再配布できます
+2-clause BSDLについてはBSDLファイルを参照して下さい.

   1. 複製は制限なく自由です.
このようにライセンスの変更をパッチで済ませてしまうのは、ハッキリ言って意味が分からないのだが、ライセンス中に登場する「作者」というのはmatz氏のことであるから、matz氏の意向次第でいくらでもライセンスの変更が可能だという解釈だそうだ。ライセンスの著者自身もmatz氏だからOKなのだろう。(ちなみにGPLの場合、ライセンス自身の著作権はフリーソフトウェア財団にある。)

そもそもがRubyライセンスはライセンス条項自身に他のライセンスとのデュアルライセンスを認めるという文言が入った「メタライセンス」的な要素が含まれている。従って、matz氏の意向次第ではどのようなライセンスとの並立も可能なのである。ライセンスでライセンスを定義するとは、まさにRubyのyet another黒魔術と言えよう。

本を頂戴した。

実は冒頭で紹介した可知氏の著書が2冊、出版社(ソフトバンククリエイティブ)から今回のjava-jaのために寄贈され、ジャンケンによる争奪戦が行われた。そして見事ジャンケンに勝ち抜き、本を頂戴することができたのだった!!

本書はソフトウェアライセンスについて非常によくまとめられた良書であり、ソフトウェア開発に関わる人が必ず知っておくべきエッセンスが詰まっていると思う。ライセンスについて無頓着な(あまり考えたくない)人でも、一度は読んでおくといいだろう。

また、リチャード・ストールマン尊師による名エッセイ集「フリーソフトウェアと自由な社会」を併せて読むと、ソフトウェアライセンスについての理解度が深まることは言うまでもない。(ソフトウェアライセンスにまつわる社会的な問題点を把握することが出来るだろう。)


まとめとか

java-jaに参加したのは今回が初めてだったが、皆さんノリがよくてとても楽しかった。ライセンスについてはソフトウェアを開発し、公開する人すべてが理解しておくべきことであるので、このような勉強会に参加できてとても有益であったと思う。

今回の勉強会の各種情報については以下のWikiページにまとめられてあるので、参加できなかったよ!!という人はぜひチェックして頂きたい。
http://www.catch.jp/wiki/index.php?javaja22

また、togetterにも参加者およびニコ生視聴者の発言がまとめられているので、こちらも見ていただくといいだろう。
http://togetter.com/li/50896

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