一生現役で居るには
プログラマに限った話ではないが、ずっと現役で働くには健康でなければならない。身体を壊して入院生活を送らなければならないようでは、労働することはもっての外である。プログラマは高い集中力が求められる職種であるが、目の前のことに集中するという点でも、健康は欠かせない要素である。
以前、アレルギー紫斑病を患ったとき、1ヶ月ほど出歩くことが出来なくなってしまった。病気自体も辛かったのだが、それよりも危機感を覚えたのが、出歩かなかったことによる身体の衰えである。筋肉は、動かさないとあっという間に衰えてしまう。一説によると、4週間寝たきりになると、88%も筋力が低下してしまうと言われている。私の場合は出歩くことが出来なかっただけで、安静にし、立ち上がったり座ったりしていただけなので、一ヶ月といえども88%もの低下はなかったと思う。しかし、「筋肉がなくなったらヤバいな」と確信するには十分であった。
筋力の低下が進行してしまうと、身の回りのことも覚束なくなり、身体もあちこち痛くなり、外出もできず、そのせいでさらに筋力が低下し、頭もはっきりしなくなり、寝たきりへ一直線の片道切符が手に入ってしまうだろう。そうなったらもう人生はお終いである。回復の見込みはない。もちろん他の病気や事故などに見舞われて、人生が短めで終了してしまう可能性はあるのだが、そうならない可能性も十分ある。幸運にも大きな病気や事故に合わずに歳を重ねた場合、充実した生活を送るのに欠かせないのが、十分な筋肉ではないだろうか。筋肉が無くなって寝たきりになってしまったら、PCの前に長時間座るといったことも、無論できなくなってしまう。
老後にコンピュータが使えなくなって良いのか?いや、そんなわけはない。死ぬまでコンピュータを触らずして何の人生か。その頃にはブログ名は翁のコンピュータ道になっているかも知れないが、とにかく一生現役で居たいのである。
何もしないと年率1%で筋肉量が低下する
サルコペニアという言葉をご存知だろうか。これは年をとって自然に筋肉が減少していく現象のことである。詳しくは、タニタが運営しているサイトの記事を見て欲しい。何もしなければ年率1%ということだが、当然その率は生活習慣や体質などの個人差によって、違ってくるだろう。我々のように、日がな一日コンピュータをいじって運動が不足している職業の人は、低下率が他の職業の人よりも大きいはずだ。
30歳から1%ずつ筋肉が減っていくというのは、言葉だけではイメージがつかみにくいかも知れないので、次のグラフを見て欲しい。
このグラフは、30歳以降の人生において、何歳のときにどの程度の筋力量になっているかということを、いくつかのパターンに分けて示したものである。青いライン(下から3番目)が純粋に1%ずつ減り続けた場合のものである。80歳のときには6割近くにまで筋力量が低下している。当然若い頃のように身体は動かなくなっているだろう。もしかすると外出すらままならないかも知れない。
一般論として、デスクワーカーである我々IT技術者は、仕事中に筋力を使う機会が無いため、これよりも減りがずっと早いかも知れない。例えば年率1.5%やあるいは2%といった減り方をしていても、それほど不思議ではない。下の2つのグラフはそれぞれ1.5%と2%のものである。いずれも定年を迎える前ですら、相当の筋肉が喪失してしまっている。これでは五十肩や腰痛といった不具合に悩まされても全く不思議ではない。コンピュータ技術者は、仕事そのものには筋肉は必要ないが、ここまで低下してしまうと机に向かっているのもしんどくなり、仕事どころではないだろう。
習慣的に適度な運動をし、0.5%程度まで低下量を抑えた場合はどうだろうか。それが緑のグラフである。このケースはかなり優秀で、100歳になってもまだ7割程度の筋肉量をキープしている。日常生活に困ることはあまり無いだろう。もし仮に、運動を頑張って50歳ぐらいまで筋肉量の低下が無かった場合、100歳でも8割の筋肉量を維持できる。この程度なら自由に動きまわってあちこち行けるし、スポーツですら楽しめるかも知れない。最も上のラインは、45歳まで筋肉量を増やすことに成功し、その後65歳まで筋力をキープし、それから年率0.5%程度で減り始めたと仮定したケースである。先日の対談記事でも新沼氏が言及されているように、45歳ぐらいまでは増やせそうである。筋肉が減ってしまうのが問題だというのであれば、できるだけ最初に盛っておいたほうが有利ではないか。このケースでは、100歳でも何と9割程度の筋力を維持しており、これは運動を全くしない人の40歳程度の筋力量とほぼ同じであり、ほぼ遜色のない活動ができるだろう。
ちなみに、怪我や病気などによって、身体を動かすことができないようになると、短期的には、筋力はもっと早いペースで衰えてしまうことになるだろう。上記のグラフは何もなかった場合、つまりベストなケースであると考えて欲しい。人生、いろいろとトラブルはつきものだ。なので、実際には筋力の維持はもっと難しいことなのかも知れない。
あの、80歳という高齢でエヴェレストの登頂に成功(世界最高例記録)した、三浦雄一郎氏の父、故・三浦敬三氏はプロスキーヤーで、何と100歳を過ぎてもスキーをしていたそうだ。恐らくスキーによって筋肉が培われ、相当上手く維持することができたのではないだろうか。恐らくは、このグラフのベストなケースに近い状態だったのではないだろうかと考えられる。
プログラマを含むコンピュータ技術者は、果たしてそのような年のとり方をできるだろうか?いや、何もせずにできるわけがない!!
そういう想いがあったため、特に病気をしてからというもの、筋トレに励む日々を送っていた。筋肉が増えるうちに、できるだけ盛っておこうと考えたからだ。
あなたはどの軌跡を辿りたいだろうか?
我流の限界
我流のメニューばかりやっているにも関わらず、筋トレはそこそこ成功したように思う。だが、CoC No.2を閉じるまでには至っていないので、はっきり言ってザコも良いところである。ただまあ、りんごを握り潰せる程度には筋力が向上したので、そこそこ上手く行ってる方だと言えるかも知れない。どんな筋トレをやっているかという話については、いずれ気が向いたら紹介したいと思う。少しだけ言うと、基本的にはセルフウェイト(自重/じじゅう)を使ったものであり、ジムへ行かずに手軽にできることを主眼に置いたメニューばかりである。
ただ、私が取り組んできたのは、所詮筋トレだけだ。それ以外のことはあまりやって来なかったし、知識にも欠けている。いや、正確に言うと何をどうすれば良いのかということすら、認識できていなかった。自宅の作業環境では、スタンディングデスクやセパレート式キーボードを導入するぐらいには、エルゴノミクスなどにも気を配っており、正直満足していたように思う。だが、ヘルシープログラマは、それでは不十分だということを教えてくれたのだ。
本書で触れられているテーマは実に幅広い。例えば次のような、プログラマにありがちな問題についての対策が紹介されている。
- 健康的な食事
- 頭痛と眼精疲労
- 腰痛
- 手首痛
ちなみに、スタンディングデスクも本書では紹介されていて、効果はあるものの、常に立ったまま作業するのは良くないということが触れられている。残念!>俺
読んでいただけばわかるが、いずれの問題についても、対策は極めて具体的かつ実践的であり、科学的なデータに裏付けされたものになっている。我流でやるよりも、ずっと高い効果が期待できるだろう。筋力を維持するのはもちろんとても重要なことであるが、コンピュータ技術者を続けていくには、それだけでは不足だったということがよくわかった。反省!!
思わずニヤリ!!IT用語で健康を解説
この書籍の最大のオモシロいポイントであり、そして残念でもあるのが、IT用語をふんだんに用いた解説が行われているという点だ。例えば次のような具合である。
- アジャイルなダイエット
- ダイエットに対するイテレーティブなアプローチ
- 健康のユニットテスト
- 健康のリファクタリング
- 自分というハードウェアのアップグレード
いかがだろう。いずれもプログラマであればお馴染みの用語が健康と絡めて用いられており、思わずニヤリ・・・としてしまうこと請け合いである。プログラマにとってはお馴染みの概念であるため、何をどうするべきかということのイメージがつかみやすいだろう。従って、本書はコンピュータ技術者にとって、極めて解りやすい健康維持のためのガイドブックであると言える。
残念な点は、IT屋以外が読んでも意味がわからないということである。そういった意味では、良い内容であるにも関わらず、わざわざ自らのオーディエンスを絞ってしまっているように思える。
圧倒的な参考文献
ダイエットやエクササイズによって、効果を挙げようと思うのなら、正しい知識が必要であることは言うまでもない。プラセボ効果というものも存在するが、プラセボ効果よりも本当に効くダイエットやエクササイズのほうがずっと効果は高いのである。その点、本書で紹介されている内容は、いずれも信頼がおけるものであると言える。何故ならば、すべての内容は医学的かつ統計学的な研究に基づいて書かれており、逐一参考文献が紹介されているからだ。さすがオライリーのクオリティである。巻末の参考文献のリストは、なんと22ページにも及ぶ。いや、まいった。
これだけ確実なデータを突きつけられれば、我流どころの話ではない。いち、コンピュータ技術者として、データの重要性、とりわけ統計的に有意なデータの重要性は理解しているつもりであるから、それに基づいたアドバイスには従わざるを得なくなってしまう。圧倒的な参考文献による、極めて強い説得力が、本書には有るのである。
付録に違和感
アマゾンのレビューでも書かれているが、本書の付録A「散歩とイングレス」は残念な内容となっている。いきなりイングレスについての説明から始まっているので、本編の内容とのつながりが一切ない上に、医学的あるいは統計学的にどうこうといった話も出てこない。単にイングレスが楽しいよということを言いたいだけのように思える。せめて、「本編では歩くことが健康にとって極めて良い習慣であるから、それを手助けするツールとしてイングレスはとても役立ちます」というような導入部があると、つながりが見えて良かったのではないかと思う。あまりにも本編と違って、付録だけが浮きすぎているのである。
これは記事を書いた吉岡氏よりも、むしろオライリーの編集部がもう少ししっかり対策すべきことだったように思える。そんなわけで、付録Aを読む際には、全く別の話、あるいは箸休め的なもののつもりで読んでみるのが良いだろう。
本書の注意点
本書は、英語から翻訳された書籍である。訳者の玉川氏も前書きで書かれているが、ドッジボールのルールは日本でよくやるもの(HUNTERxHUNTERでゴンがレイザーと対戦したときのヤツ)とはまるで違う。そういった文化の違いなどについても、若干考慮する必要がある。
翻訳の質は高く、読みやすい文章になっている。元が日本語だと言われても違和感はない。誤訳もほとんど見当たらなかった。ただ一箇所だけ、P.180の「極端な体重は必要ありません」という部分は、恐らく「極端な錘(おもり)は必要ありません」の間違いではないかと思う。あるいは単にウェイトとカタカナで書いても良かったかも知れない。
まとめ
コンピュータ技術者の仕事そのものには、確かに筋力は要らない。そのせいか、とかくプログラマの健康は、蔑ろにされがちである。コンピュータ技術者(IT屋)は、座りっぱなしで長時間画面を見つめてキーボードを打つ姿勢のために、特有の健康上の問題を抱えている。労働時間も長くなりがちで、健康に対する優先度も低い。映画や漫画などの創作物に出てくるプログラマといえば、太っていたり、逆に物凄くガリガリだったりして、如何にも不健康そうなイメージがあるように思う。だが、当然そのような姿勢は間違いだ。健康を蔑ろにしていれば、プログラマをつづけていくことは出来ないだろう。若くして身体が衰えてしまい、ロクに働くことも遊ぶこともできなくなってしまう可能性が高い。中でも筋力の衰えは深刻だ。筋肉が衰えやすい仕事だからこそ、意識して筋力を鍛えなければならない。すべてのコンピュータ技術者は筋力トレーニングをするべきなのだ!!また、高齢化が進む今の時代だからこそ、まさに健康寿命が重要であるように思う。できるだけ長く現役を続けることは、プログラマにとって、いや全人類にとって重要な課題である!!
今こそIT屋はヘルシープログラマを熟読し、全力で反省して、健康になるべきなのである!!そして、生涯現役で人生を楽しもうではないか。
なお、本書については、握力王新沼氏も書評を書かれているので、ぜひ参照して欲しい。
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