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2010-04-08

iPadが発売されたのでアップル信者じゃないギークが将来を占ってみる。

今月3日に米国でiPadが発売され、巷はiPadの話題で持ちきりといった様相を呈している。かの有名なアップル信者である江島健太郎氏がiPadについて早速レビュー記事を投稿されているが、江島氏には珍しく(?)、片方では革新的なデバイスだという称賛をしつつも、iPadに対する苦言が並べられたエントリとなっている。江島氏の言葉を引用すると「長年のアップル信者としては、こうやって指摘することが少しでもいい方向に向かっていく助けになればと願うばかりです。」だそうだ。これをオレ流に解釈すると「軌道修正しないとヤバイよアップルさんよ!」と変換される。

iPadは日本で成功するか?

よく「iPadは爆発的にヒットする!」的な発言を見かける(池田信夫氏までそんなこと言ってる)が、俺はそうは思わない。以前にも書いたが、iPadは日本で苦戦すると思う。

米国でのiPadの出だしは好調のようだ。iPhone 3Gは発売後一週間で100万台、iPhone 3GSは160万台売れた実績がある。iPadは今のところ3日で30万台という数字が出ているので一週間で50万台ぐらいになるだろうか。だいたいiPhone 3GSの1/3ぐらい。いいペースだ。この伸びが維持できればiPhoneと同じ規模の大ヒットになるだろう。この伸びが維持できるかどうか、そこがネックになると思う。

一方、iPhoneは日本国内で累計300万台以上売れたという数字が出ている。こちらもなかなかの数値だが、これはアップルの実力というよりも、ソフトバンクによるiPhoneの価格優位性(リベートが大きい)などの要因によると考えられる。iPadがいくらで販売されるか。それによって販売台数が大きく左右されるだろう。

一体誰がiPadを買うのか?

iPhoneが爆発的にヒットした要因のひとつに、「電話だから」という理由が大きいと思う。電話が必要、だからその選択肢としてiPhoneを選ぶ。携帯電話市場の一部を頂戴するわけである。だから電話機能が搭載されていないiPadには、その市場は望めない。

一方で、iPadの目玉機能といえば電子書籍リーダーだ。電子書籍リーダーの先駆者と言えばKindleである。(ソニーはちょっと隅においとく。)Kindleの販売台数の情報は公開されていないが、iPadにあっさりと抜かれてしまう公算が高い。正式な情報は公開されていないものの、Kindleは発売後9ヶ月で24万台の販売実績だったという説がある。iPadは少なくとも、Kindleが9ヶ月掛かった販売実績を3日で抜いてしまったことになる。これは凄い。これまで先人達が頑張って温めてきた市場を一気に搔っ攫った格好になるが、アップルの目論見は成功したと見ていいだろう。

アップルは新たな市場を開拓したわけではない。確かにアップルがさらに火をつけたということは言えるだろうが、市場は既に他のプレイヤーによって開拓されていたのだ。「鳶に油揚げをさらわれる」とはまさにこのことであると言えよう。

ただし!日本では肝心の電子書籍機能が利用出来ない。先月「日本電子書籍出版社協会」が発足したというニュースがあったように、日本における各出版社の電子書籍への対応は極めて遅いと言わざるを得ない。これはiPadにとってもの凄い逆風である。電話でも電子書籍リーダーでもないiPadは、日本ではかなり苦戦するだろう。

電子書籍機能を抜いてみると、iPadには2つの側面が見えてくる。ひとつは「優れたネット端末」という側面(ただしSafariは微妙)と、「新たなゲームプラットフォーム」という側面だ。iPadは画面が大きく、ウェブを快適にブラウズできる。パソコンほど快適にキー入力は出来ないものの、ソフトウェアキーボードの使い心地も悪く無さそうだ。となると、完全にネットブックの代替として利用するという用途が考えられる。iPadによって「パソコンを持たない」というライフスタイルが確立されるかも知れない。

iPadは始まりに過ぎない

アップルを称賛するとすれば、iPadをリリースするタイミングが素晴らしいということが挙げられる。市場のニーズと、それを満たすことが出来る技術的な背景の見極めが、完全にマッチしているのだ。特に技術的な側面に目を向けると、iPadに搭載されているA4チップは独自のSoCであり、こういった低電力なチップでも快適に画面を操作したり、ウェブを閲覧したりすることが可能になってきた。そう、今まさにその時なのだ。

その時期に製品をプロデュースし、自らのブランド力をもって電子書籍リーダーという市場に殴り込みを掛けるというシナリオは、完璧である。タイミングが素晴らしい。iPhoneほどの規模にはならないだろうが、iPadは(特に日本以外の地域で)かなりヒットすることになるだろう。iPadによって、確実に新たな市場が開拓されるに違いないのである。

ただし、iPadは市場の火付け役にはなるだろうが、もちろん他のプレイヤーも黙っていない。9 Upcoming Tablet Alternatives to the Apple iPadというページ(英語)では、iPadのライバルになるであろう9機種が紹介されているが、その筆頭はライバルのPCメーカーであるHPとDELLである。先ほど述べたような技術的な時代背景は、何もアップルだけのものではない。他のメーカーも、同じようなものを作ろうと思えば作れるのである。アップルの(というかジョブズ氏の)先見の明が素晴らしく、たまたまアップルが真っ先にiPadを投入する事が出来ただけであり、これからライバル達の攻勢が始まるであろう。

アップルは確かに市場に火をつけた。ただしこれは始まりに過ぎない。

上記のページで紹介された9つのライバル達は全てAndroid/Chrome OS搭載のものであるが、ライバルはGoogle陣営だけではない。マイクロソフトが発表したWindows Phone 7や、NokiaのMeeGoベースの端末も強力なライバルになり得るだろう。iPad、Android、ChromeOS、WP7、MeeGo etc etc...。これからこのセグメントの市場は爆発的な成長を遂げることになるだろう。

iPadが他のプレイヤーと比べて不利なことのひとつとして、OSを他の企業にライセンスしないという点が挙げられる。iPhone OSを搭載したハードウェアを企画・販売できるのはアップルだけである。一方、Androidはオープンソースソフトウェアであり、どの企業でもGoogleに断ることなくAndroidを利用することが出来る。アップルが全くカバー出来ないような分野で、Androidを利用することも可能なのだ。多様なデバイスで利用可能なAndroidは、多様なニーズを満たすことができる。例えば、先日発表された「世界初のAndroidテレビ」などがその一例だ。Androidがリーチできる市場は広大だ。

iPadは「新たなゲームプラットフォーム」になるだろうと上で述べたが、そうなると任天堂やソニーも黙ってはいないだろう。特に任天堂はDSでタッチスクリーンを採用した実績があるので期待が持てる。iPadは5万円以上する高額機だが、任天堂やソニーがその半額ぐらいで新たなゲーム機を投入したら、iPad以上に流行る可能性は充分にある。アップルのブランド力も強いが任天堂のブランド力もかなり強い。(もし任天堂やソニーがアップルと同じように完全なダウンロード販売戦略をとれば、ゲームソフトの店頭販売は消滅するだろう。チーン。)

HTML5!!

iPadをはじめ、このセグメントで製品がこのように大量に産み出されるだろうと予想される根拠のひとつに、快適にウェブがブラウズ出来るということが挙げられる。HTML5の仕様が固まりつつあるが、これからはHTML5への準拠がより一層強く求められるのである。江島氏は「Safariが標準に従ってない」ということを懸念されているが、それは尤もな話なのである。もしChromeOS端末が正常にウェブページを表示出来て、iPadが出来ないとしたら、人々は一気にiPadを見放す可能性も出てきてしまうだろう。冒頭でも書いたが、軌道修正しないとヤバイのである。マイクロソフトも、過去のような(IEにおける標準からの逸脱のような)怠慢は許されない。

HTML5を制するタブレットは世界を制す!

のである。と、ひとつ方向性が見えたところで本日のエントリを締めくくろうと思う。

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