ジョナサンが放ったカウンター
元記事でも語られているが、いずれの場合もジョナサン・シュワルツ氏は、サン・マイクロシステムズが保有していた特許で対抗した。以下はZDNetの記事からの引用だ。まずはAppleから。Appleに対して、Schwartz氏はAppleのプレゼンテーションソフト「Keynote」と、Schwartz氏が設立に関わりSunが買収したLighthouse Designの「Concurrence」との間の類似点を持ち出した。その上で同氏は、Sunが持つOSの特許について触れたが、これはSunのUNIXへの関わり、そしてAppleの「Mac OS X」がUNIXの技術を使っている点を考えれば、有効な指摘だった。「Steveは黙っていた」とSchwartz氏は振り返っている。サンもたくさんの特許を保有していた(今はオラクルの所有になっている)から、その特許で訴えられることはAppleにとって驚異だ。Looking Glassプロジェクトが頓挫した今となっては、提訴合戦に持ち込めばApple側のダメージの方が大きくなるだけだろう。「Steveは黙っていた」理由は、Appleが強烈なカウンターを食らうことが容易に想像出来たからだろう。
MSに対しては次のようにSunが持つJava関連の特許で.Netに対抗したそうだ。
Microsoftのケースでは、Sunは反論の中でMicrosoftのプログラミング基盤「.NET」と、それより先に開発されたSunの「Java」を取り上げた。Schwartz氏はブログに「Microsoftは成功した製品をまねてきた前歴があり、その上で自らの流通の力を利用して競争相手の脅威を排除する(中略)。ゆえにMicrosoftがウェブアプリケーションのプラットフォームである.NETを開発した際にも、同社の設計者がJavaを見ていたことは明白だった。わたしはまさにこの点を材料に反論した。『.Netを見たが、貴社は数多くのJavaの特許を踏みにじっている。Windows1パッケージにつき、いかほど支払ってもらえるのだろうか?』」と書いている。同氏によれば「話し合いは短時間で終わった」という。.Netは確かに明らかなパクリだ。これは黙るしかない。ひとつジョナサンが判断を誤ったとしたら、本当の戦いに持ち込まなかったという点ではないか?とすら思える。「Windows1パッケージにつき、いかほど」か支払ってもらっていたら、サンの業績は明らかに向上していたことだろう。(実際には提訴合戦にはならなかったワケだが。)
このように、ソフトウェア特許には特許で対抗できるのである。
Sun vs NetApp
サンが過去に関わった特許関連の係争としては、NetAppと繰り広げたものがある。経緯などは以下のページを参照のこと。その後どうなったかは知らないけど、これは実際に提訴合戦に持ち込まれたケースだ。サンはここでも「特許には特許で対抗」している。こんな争いは虚しいだけだというのが正直な感想だ。(両社の業績にとってはダメージにしかなっていない。)
Apple vs HTC + Google
最近、新たに提訴合戦が勃発した。発端はAppleによるHTCの提訴だ。HTCが採用したAndroidが、iPhoneの特許を侵害しているというのがAppleの主張だ。Appleは、HTCに対してなら提訴合戦で勝てると思ったんだろう。会社の体力も違うし、保有している特許ポートフォリオもまるで違う。AndroidのバックにはGoogleもついているが、Googleが果たしてAndroid関連の特許をどれだけ押さえているかということは疑問が残る。
次はこの件に関するAppleの声明文からの引用だ。
「我々が特許を持つ発明を競合他社が盗用するのを何もしないで見ているか、何か行動を起こすべきか。私たちは行動を起こすことに決めました。私たちは、競争は健全なことだと考えていますが、競合他社は自分たちで独自の技術を作るべきであって、当社の技術を盗むべきではありません。」と、AppleのCEO(最高経営責任者)、スティーブ・ジョブズは述べています。iPhone OSはUNIXベースのOSだ。どの口で「独自の技術」などとほざいているのか??と声を大にして叫びたい。もし相手がサン(オラクル)だったら、Appleは大人しく引き返すしかなかったに違いないのだ!
そんなわけで、この件に関しては俄然HTCとGoogleを応援したいと個人的には思っている。
ジョナサンがとった対策はいずれもAppleやMSから特許侵害だと脅された製品とは異なる製品に関する特許を持ち出している。従って、GoogleもAndroidそのもので対抗する必要は必ずしもないのではないか。例えば、GoogleはMapReduceの特許を持っているが、これをチラつかせればデータセンタービジネスを始めようとしているAppleにとっては致命傷になる可能性がある。他にも、On2の買収によって手に入れた映像関係の特許でもって、Quicktimeを特許侵害で訴えることが出来るかも知れない。
ウェブサービスに訪れる特許提訴の驚異/javascript
現在、ウェブサービス(ウェブサイトの運営)は、特許侵害のリスクから逃れることに成功している。なぜなら、ウェブサイトの中身、つまり利用されているプログラムはブラックボックスだからだ。特許技術が使われているかどうかは、外から見ただけでは分からない。だが、時代は移り変わろうとしている。あまたのウェブサイトでは、利用されているプログラムがどんどん露出するようになって来た。そう、Javascriptだ。
Javascriptの重要性は今後ますます高まり、そのコード量は増えていく一方だろう。Javascriptを使って実装されるロジックもどんどん複雑になっていく。すると、特許ゴロがそのソースコードを監視するようになることが予想される。ウェブサービスは、Javascriptによって特許侵害のリスクに晒されることになるのである。
Googleを初めとするウェブ企業は、これまで特許侵害のリスクから幸運にも逃れることが出来た。しかし、これからは特許侵害のリスクという逆風に晒される時代がやってくることが予想される。これまであまり特許に関心がなかったウェブ界隈の人も、今一度特許侵害のリスクについて考えて頂きたい。(Javascriptを使うなといいたいワケではないので、そこは誤解のないようにお願いしたい。)
H.264
Javascriptを利用していなくても、ウェブサイトは特許とは無縁ではない。あの悪名高いGIF特許を思い出して欲しい。以下はITMediaの記事からの引用である。Unisysは同特許について当初「フリーソフトなどからは特許料は取らない」という方針を表明していた。このためWebページに手軽に使える画像フォーマットとしてGIF形式が急速に普及したが、後になって5000ドルのライセンス料を要求。メーカー製グラフィックスソフトなどは同社とライセンス契約を結んでGIFへの対応を続けたが、フリーソフト作者はライセンス料の支払いや同社の態度を嫌い、ほとんどがGIFサポートを停止した。またGIFに代わる画像形式としてPNGが考案された。今まさに同じようなことが起きようとしている。そう、H.264フォーマットだ。H.264関連の特許を保有しているMPEG LAは、現在ライセンス料を徴収しないという方針をとっているが、そのような方針はMPEG LAの胸三寸で決まる。Unisysのようにいくらでも方針を覆すことが可能であり、特許侵害による提訴のターゲットにされた企業はひとたまりもないだろう。MPEG税の到来は近い。
H.264の問題については、もう一度エントリを書こうと思うが、Publickeyの記事が非常によくまとまっているので、まずはそちらを見て頂きたい。
まとめ / ソフトウェア特許を見直そう!
とりとめのない記事になってしまったが、この辺で強引にまとめようと思う。特許侵害による提訴は、一切ユーザーのためにはなっていない。企業が特許侵害に踏み切る背景には、「我が社の利益を守れ!」という目的しか存在しないように見える。企業はそれが「健全な競争」だと主張するが、果たしてそうだろうか?そもそも健全な競争が大事なのは、その競争によってユーザーが次のようなメリットを享受できるからに他ならない。- 競争によって価格が下落する。
- 製品の品質が向上する。
- 企業がユーザーを大事にするようになる。
- 積極的に新しい技術が開発される。
本気で大企業が特許の精査を行うと、途方もない人件費と提訴費用が必要になる。それでは一向に技術開発は進まないし、他社からの提訴に耐えうるのは体力のある大企業だけになってしまう。AppleがHTCを提訴したのは、HTCには特許ポートフォリオや提訴合戦を戦い抜くだけの体力がないと判断したからだろう。(そうでなければジョブズは黙り込んでいたはずだ。)特許は、このように悪い企業による弱いもの虐めをする(新興企業を潰す)目的では利用できるが、それはユーザーにっとては不利益である。ライバルが大きくなる前に潰して独占状態を作り出すことが出来るからである。
Appleが言うような「独自の技術」というのもただの幻想である。そもそもiPhone OSはUNIXベースであり、UNIXはAppleが開発したわけではない。データストアとして利用されているSQLiteだってAppleが開発したわけではない。例を挙げればキリがないけれども、コンピュータソフトウェアは様々な既存の技術を土台として成り立っている。まったく新しい独自の技術などというものは存在しないのである!(もしそのような技術があったとしても、他の技術と互換性がなければそれはガラパゴスと呼ばれることになるだろう。)
このように、コンピュータ産業、特にソフトウェアの領域では、特許というものは全く企業競争の役に立っていないどころか、無駄な弁護士費用をかけることによって企業の体力を奪い、さらには新興企業を潰すために利用されている。本当に大事なのは我々ユーザーが如何にメリットを享受できるかであって、特定の企業が独占によって利益を守ることではない。特許の在り方について、我々がもう一度見直す時期が来ているのである。
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