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2013-02-25

Ubuntu脱出計画その1 〜動機編〜

実は最近Ubuntuから別のディストリビューションに転向した。そろそろ新しい環境にも慣れてきたのでエントリにまとめようと思う。

だが、新しい環境について語る前に、なぜUbuntuから乗り換えたのかということについて語ろうと思う。語らなくて良い?いや、まあそう言わずに聞いて行って頂きたい。

Ubuntuの何が問題なのか


機能や性能という点ではUbuntuに特に不満はなかった。Ubuntu性能面では少し劣ると言われているが致命的なほどではなかったし、何より日々の作業に支障はなかった。では何故乗り換える必要があったのか。それは我らがリチャード・ストールマンの意向に従いたかったからだ。

少し古い話になるが、リチャード・ストールマンはフリーソフトウェア財団のサイトにおいて、Ubuntu Spyware: What to do? という記事で「Ubuntuがスパイウェアだ!」と痛烈に批判している。日本語の記事もいくつかあるのでそちらも参照して頂きたい。


問題の概要を簡単に説明しよう。

UbuntuのUnityデスクトップではWindowsキーを押したり画面左上のUbuntuアイコンを押すと、Dashと呼ばれる検索窓つきの画面が表示される。

(Wikipediaより)


検索窓で文字を入力するとインクリメンタルサーチによって、検索キーワードに該当するアプリケーションやファイルなどが表示されるのだが、なんとUbuntu 12.10からはAmazonの商品も検索結果に現れるようになった。これはAmazon Lensというプラグインによる機能であり、デフォルトで有効になっている。Amazonの商品のデータはもちろんインターネット経由で取得される。つまり、Dashでインクリメンタルサーチをおこなうと、キーストロークが送信されてしまうのである。ユーザーの了解なしにである。これは重大なプライバシーの問題だ!

Amazon Lensは検索結果を直接Amazonに送るのではなく、いったんUbuntuの開発元であるCanonicalのサーバーに送信するようになっているので、Amazonには匿名化された情報が送られるとしている。しかしそこには依然として問題が含まれている。

  • ユーザーのプライバシーがCanonicalにはダダ漏れになっている。
  • 検索のキーワードそのものにプライバシーに関わる情報が含まれている可能性がある。(誤って秘密を検索窓にコピペしてしまったらどうなるだろう?)
  • Amazon Lensを有効化していることについての警告が一切ないので、意図せずインターネットに情報を送信してしまう可能性がある。(Amazon Lensは以前のバージョンにはなかった機能だ。)

このような状況では、Ubuntuはスパイウェアだという批判は妥当なように思える。

ライセンスの問題ではない


この件についてのリチャード・ストールマンによるUbuntuへの批判は、ライセンスに関するものではない。リチャード・ストールマン(ないしはフリーソフトウェア財団)が批判をするといえば、決まってその内容はプロプライエタリソフトウェアはダメだから自由なソフトウェアを使おうという主旨のものとなることが多い(そもそもGNUはそのためのプロジェクトだ)のだが今回は違う。驚くことなかれ。Amazon LensのライセンスはなんとGPLv3だ。つまりAmazon Lensは自由なソフトウェアなのである。

自由なソフトウェアだろうがプロプライエタリだろうがダメなものはダメなのである。自由なソフトウェアだからといってユーザーのプライバシーが蔑ろにされて良いという理由は一切ない。

ところで、チャード・ストールマンをよく知らない人はなぜ彼がプライバシーについて警告するのだろうか?と不思議に思うかも知れない。実はプライバシー関連のトピックもリチャード・ストールマンの得意とするところだ。なぜなら、自由なソフトウェアを使うべき理由のひとつに、ユーザーのプライバシーを守るというものがあるからだ。自由なソフトウェアならば何を実行するかあるいは実行しないかはユーザーに決定権があり、そのため不用意にプライバシーが侵害されるリスクも低い。

今回はAmazon Lensが批判の的となったが、それでもAmazon Lensを含むUnityデスクトップは自由なソフトウェアであるから、Amazon Lensを簡単に無効化またはアンインストールすることができる。プロプライエタリソフトウェアであればそうは行かなかっただろう。

過敏になりすぎ?


CanonicalはなぜUbuntu 12.10でこのような批判の対象となる機能を追加し、さらにしぶとく反論までしたのだろうか。それはもちろんAmazonのアフィリエイトによる収入を得るためだろう。自由なソフトウェアないしはオープンソースソフトウェアを提供する企業にとって、どのように収益を得るかはとてもシビアな課題である。そもそもUbuntuはタダでダウンロードできる。Canonicalの収入源がどのようなものかは知らない(一応FAQには「Canonicalの主な収入源は、Ubuntuに関連した法人向けのサポートや環境建築から来ています。Caonicalは、500を超える企業・教育機関・研究所・政府など、必要とされれば全世界に24時間いつでもサポートサービスを提供しています。」とある)が、営利企業にとって収入を得ることは最重要課題である。多くのユーザーベースを持つUbuntuにとって、広告からの収入という誘惑はとても大きなものだったのだろう。

広告ぐらいいいじゃないか。

そう思う人もたくさん居るだろう。私自信、別に広告があることは特に問題ないと思ってる(というかブログにも張り付けている)し、広告から収入を得るというビジネスモデル自体を否定するわけではない。あくまでもプライバシーへの脅威が問題なのだ。

プライバシーが重要であることは今更言うまでもない。とりわけインターネットを利用する際はプライバシー漏洩のリスクは高くなる。社会はインターネットに依存するようになってきており、その傾向は今後ますます強くなていくことだろう。インターネットへの依存度が高くなればなるほど、プライバシーにはより敏感になるべきである。敏感になりすぎだという人に無理強いはしないが、被害に遭わないよう用心しておいたほうが身のためだろと思っている。プライバシーについて普段から考えておくというのも(安全にインターネットを利用する上でも、他者のプライバシーを侵害しないためにも)重要なことだし、このエントリが読者がプライバシーについて考えるきっかけになってくれれば幸いである。

Amazon Lenzを無効にするだけで良かったのでは?


そう言われると反論の余地はない。問題なのはAmazon Lens(正確にはAmazonの検索結果を表示するLensプラグイン集)だけであり、それらを無効化またはアンインストールすればこの件でプライバシーが侵害される恐れはない。そもそも私はKDEユーザーなので、Unityデスクトップ自体使ってすらいないので元から影響はなかった。

ではなぜ乗り換える気になったのか。そこには論理的に説明できる何らかの理由があるわけではない。単刀直入に言えば、今回の騒動でUbuntuが気に入らなくなったということだ。特にUbuntu側の反論エントリを読んで白けてしまったのが大きい。気に入らないから他のものに変える。ただそれだけの話である。

個人的にはUbuntuが気に入らなくなってしまったが、だからといって他の人に、特に今現在Ubuntuを使っている人に「乗り換えろ」というつもりは毛頭ない。(もしあなたがGNUの同志であれば説得するが。)確かにAmazon Lensというプライバシーを侵害する可能性が極めて高い機能はあるが、簡単に無効化できるし、インターネットにデータが送信されることを承知で使う分には問題がないからだ。それにUbuntuはプロプライエタリなOSより1億倍良いし、日本にもユーザーは多いし、使い方は簡単なので覚えやすい。今現在プロプライエタリなOSを使っていてUbuntuへの移行を考えているなら絶対にそうするべきだ。ただ、すでにLinuxを使うことが決まっていてどのディストリビューションにしようか迷っているというのなら、Ubuntu以外のものも検討することををおすすめしたい。(ちなみに私が所有しているマシンでUbuntuがインストールされているものは1台だけだった。)

そんなわけで脱Ubuntuを果たしたわけだが、移行した先はSabayonである。(サバヨンもしくはサバイヨンと読む。)聞きなれないディストリビューションだが、イタリア発のGentooベースのディストリビューションだ。たぶん日本にはあんまりユーザーは居ないし「Gentoo使えば」という声がほうぼうから聞こえてくることだろう。そんなわけで別の意味でこちらもあまり他の人にはお勧めはしないのだが、これはこれで独特の面白さがあってアリじゃないかと思う。また時間があるときにSabayon Linuxのインストールや設定について紹介しようと思う。

4 件のコメント:

  1. いつも記事を楽しく拝見させていただいています。
    特にMySQLについてはとても参考になりますし、個人的にはロボットダンスの記事など、おもしろいと思いました。

    さて、プライバシーについて分からないことがありましたので質問させて下さい。

    Amazon Lensや、それを是とするCanonicalの方針が気に入らないという点については分かりました。

    ただ、このブログにも広告を張り付けているということ、プライバシーポリシーを拝見すると第三者配信による広告サービスを利用していることからおかしいなと思いました。

    つまり、他人(この場合Canonical)がAmazonにデータを渡すのは許さないが、自分が第三者配信サービスにデータを渡すのは構わない、と読めます。

    そうであればちょっといかがなものかと思いました。

    あるいは、こちらで利用されている第三者配信サービスは、Amazon Lensよりはプライバシーの観点から幾分ましであり、程度問題である、ということでしょうか?

    すみません、批判や喧嘩を売っているわけではなく、純粋にどうお考えなのか知りたいと思いました。

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  2. 玉越大輝 さん、コメントありがとうございます。

    > 他人(この場合Canonical)がAmazonにデータを渡すのは許さない

    この点は少し誤解があるようです。本文でも書いていますがもう少し平たくいうと

    ・キーストロークがCanonical(Amazonではなく)へ渡ること
    ・送信されるデータそのものに秘密にしておきたい情報(例えば誤ってクレジットカード番号をペーストしてしまうなど)が含まれる可能性があること

    が問題だと思っています。広告ビジネス等を否定するつもりはありません。

    また、ブラウザはインターネットに情報が送信されることが前提になっているソフトウェアであり、Dashのようなソフトウェアとは明確に区別して議論すべきだと思います。

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  3. 「プライバシーについて普段から考えておくというもの」の最後の「もの」は「のも」ですね。

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  4. その通りですね。ご指摘ありがとうございます。

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