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2012-09-11

Linuxデスクトップは本当に死んだのか

何がLinuxデスクトップを殺したかというエントリが話題を呼んでいる。これは元が英文のエントリで、著者はなんとGNOMEやMonoプロジェクトを開始したMiguel de Icaza氏だ。そのような御大が「Linuxデスクトップは死んだ」と題したエントリで、最終的に「OSXを使って満足している」という結論に至っているのだから話題にならないわけはない。「OSXを使って満足している」という部分に数多くのマックユーザーが反応してコメントを寄せているのが趣深い。

果たしてLinuxデスクトップは本当に死んだのだろうか?今日はその点について考察しようと思う。

コンシューマー向けに限った話


コメントを残した多くの人が誤解している点がある。それは、Miguel de Icaza氏の主張が「Linuxデスクトップはコンシューマーへの普及に失敗したのでは」という話だ。Linuxと比べてOSXは大いに成功していると。確かにOSXの勢いは凄い。恐らくiPhoneとの親和性が高いから、スタイリッシュな製品が続々と投入されてきたからという理由が大きいのだろう。OSX躍進の様子は、NetMarketshareのレポートなどからも読み取れる。



なんと2012年8月はシェアが7%を超えている。これはもはやひとつのメジャーな勢力となっていると言えるし、商業的には大成功だろう。一方で、Linuxは1.1%程度しかない。OSXの1/7である。これを多いと見るか少ないと見るか。数字を見る上では過去との比較が重要になるが、昔はどんな状況だったのだろうか。同じくNetMarketshareで2007年11月のデータ(NetMarketshareで見ることができる一番古いデータ)を見てみよう。



なんと、当時はそれぞれOSXが3.4%、Linuxが0.65%しかシェアがなかったのだ。この5年間でOSXはなんと2倍程度にシェアが伸びていることになる。Linuxもかなりの伸びだ。時期によってはもっとシェアが高かったこともあるので、実質的には倍程度ではないだろうか。(なぜこれほどの結果のフラつきがあるのかは謎だ。)

ひとつ確実に言えることは、OSXは劇的にシェアを伸ばしているが、その一方でLinuxもシェアをかなり伸ばしているということだ。それが事実だ。

ちなみに、この手の市場シェアの統計は、誰が集計したかによって若干結果にブレがある。Wikipediaに最新のデータの比較があるので公平性のためそちらも参照していただきたい。

Usage share of operating systems - Wikipedia, the free encyclopedia

※NetMarketshareの結果はデスクトップだけでなくモバイル用OSも合わせたものになっているので、Wikipediaの数字は先ほどのNetMarketshareのものとは若干異なっているので注意。

統計情報を見る限り、「Linuxデスクトップは死んだ」というのはMiguel de Icaza氏の印象論ではないかと思う。もしくはOSXが大成功しているのでそう見えたのかも知れない。しかじ統計情報が物語るのはLinuxのシェアは大きく伸びているということであり、Linuxデスクトップは死ぬどころかむしろ成功しているように見えるということである。

開発者向けには依然として最高の環境


実はMiguel de Icaza氏の記事には途中で追記が入っている。意図したものとは異なる反応が多く見受けられたからのようだ。氏の思いを象徴するのが次のコメントだろう。

この題名で僕が意図したのは、デスクトップ分野の Linux が消費者向けのオペレーティングシステムの競争で負けたということだ。Linux は重要なエンジニアリングワークステーションであり続けるだろうし(だから僕は家のシステムのハードディスクを交換しているわけで)、それにそう、友達の多くがデスクトップで Linux を使っており、それを愛していることは承知している。

はてブには開発者の面々からOSXを賞賛するコメントが数々綴られているが、エンジニアリングワークステーションとしてのLinuxデスクトップは優れたシステムなのだから、開発者がLinuxデスクトップを貶めるような発言をするのは筋違いではなかろうか。

私はLinuxデスクトップ(KDE)を使用しているが、使い心地は最高である。Linuxデスクトップの前はOSXを使っていたが、今のほうが遥かに快適である。Linuxデスクトップが快適と感じるかどうかは、使う人の志向や用途次第ではないだろうか。

Linuxデスクトップ普及の解決策は何か?


ユーザーは増えつつあるのだから現状維持で良いのではないだろうか。正直なところ、私個人の意見としては、むしろコンシューマー向けにならなくても良いと思っている。ごく利己的な意見を言わせてもらうならば、一般人ウケする機能は私自身には何のメリットももたらさないので開発しないで欲しい。むしろそのような機能の実装にリソースがとられて品質が低下したり、その他の「開発者にとって必要な機能」への投資が失われたりしたら本末転倒だとすら思う。今ある機能を今の方向性で磨いてもらえれば十分である。

誤解がないよう弁明しておくが、Linuxデスクトップのユーザビリティが低いと言っているのではない。Linuxのデスクトップ環境は非常に進化が早く、ユーザビリティも日々進化している。特にKDEの進化は目覚しく、バージョンが上がるごとに機能の拡充と性能向上が図られている。ただ、Linuxデスクトップには明確な苦手な処理がある。例えばiPhoneとの親和性や、MS Office文書の閲覧・編集などだ。そのようなことをさせなければ、この上なく快適な環境であると言える。

Miguel de Icaza氏は、記事の最後で「Linuxデスクトップを統合しろ」という旨のことを書いている。これは非常によく聴かれる意見だが、これは実現するのは不可能だし、個人的には実現する必要性もないと思っている。

そもそも、Linuxデスクトップとしてひとくくりに扱われているが、そのような認識がそもそも間違っているのではないか。それらを1種類のOSだと考えるからややこしいのであって、たまたまLinuxカーネルを採用したOSがたくさんあるだけだと思えばいいのである。(ラッキーなことにカーネル周りのノウハウは流用できる!!)異なるOSなのだから、それぞれのOSが独自に成功を目指せば良いのだ。

結論


Linuxデスクトップは死んでいないどころかむしろ成功している。

余談


Linuxカーネルを採用したOSを使う上で幸運なのは、それらのほとんどのOS上でGNUのツール群を使うことができるということだ。(そもそもGNOMEもGNUのプロジェクトである。)素晴らしきかなGNU!!

Miguel de Icaza氏は次のように語っている。

下位互換性や Linux ディストリビューション間の互換性は、セクシーな問題ではない。解決するのが面白い問題ですらない。そんな仕事をやろうとは誰も思わないし、誰もが革新を起こして Linux の次の目玉機能に関わりたいのだ。

かたや偉大なるリチャード・ストールマンは次のように述べている。(書籍「フリーソフトウェアと自由な社会」より)

ですから、他の人が作らなかった小さな部品を隅々まで作ったのは、私たちです。私たちがそういう仕事をしたのは、それがなければ、完全なシステムにならないことが分かっていたからです。tarやmvのように本当に退屈でロマンのない仕事でも[聴衆の笑い]、私たちはしました。あるいはld。lに特に面白いわくわくするようなところはありませんが[聴衆の笑い]、私はldを書きました。

GNUの数々のソフトウェア群は、Linuxカーネルを採用する各種OSにとって未だに重要なツールで在り続けている。GNU抜きではこの使い勝手の良さはあり得ないだろう。そういった成果は、もちろん革新的でエキサイティングなソフトウェアの開発によってもたらされた側面もあるだろうが、GNUプロジェクトの地道な努力も忘れてはいけない。むしろそういった努力がなければいわゆる「オープンソース」と呼ばれるモデルは成り立たないだろう。フリー(自由な)ソフトウェアはコンピュータ業界の良心なのである。

余談2


Linuxカーネルにまつわる問題点のひとつとして、グラフィックカードのドライバがしばしば話題に上る。ベンダーがプロプライエタリな(自由でない)ドライバしかリリースしていないのだ。AMDとnVidiaに言いたい。1%のシェアが欲しければドライバをフリー(自由な)ソフトウェアとして公開するべきだと。もしくはデバイスドライバを作成するのに充分な(内部アーキテクチャがわかる)資料を公開するべきである。

7 コメント:

yx_wh さんのコメント...

Is Linux AN operation system?
No, it's a Kernel of MANY MANY operation systems.
Macと同じく、Linuxもかなりの伸びだというのは初耳ですね。勉強になりました。

Mikiya Okuno さんのコメント...

yx_wh さん、

コメントありがとうございます。死んだかどうかなんてのは所詮は感じ方次第だと思いますが、統計上はとても死んでしまったようには見えないですね。実際Linuxデスクトップは年々使いやすくなっていますし、使う人がそれで満足していればそれで良いのでしょう。OSXのユーザー数が伸びてるというのは事実ですし、OSXが良ければOSXを使えばいいと思います。(ただし自由なソフトウェアを尊重する立場からは、個人的には決して人にすすめたりはしませんが。)

iwazer さんのコメント...

楽しいエントリーでした。
最後のドライバがフリーで公開されたらLinuxの大きな弱点がひとつなくなって、グラフィックカードメーカーのシェアももっと拡大する可能性がありそうですね。

Mikiya Okuno さんのコメント...

iwazer さん、

コメントありがとうございます。ドライバの問題は本当に残念な状況です。今の調子だとインテルの内蔵グラフィックに流れるような気がします。

patagonia さんのコメント...

14年ぶりにLinuxに触れました。
大変な進歩で驚いています。
6台のパソコンの内4台をLinuxで利用しています。

Mikiya Okuno さんのコメント...

patagonia さん、

コメントありがとうございます。14年は凄いブランクですね。Linuxデスクトップは苦手な分野がはっきりしているので、そういうことをしなければ至極快適だと思っています。

JYUZEN さんのコメント...

LinuxはDesktopでも使えると思います。しかし、それには、MS Office相当の製品が使えることが必須と思いますが、どんなものがあるでしょうか?

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