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2009-02-02

コンピュータ業界の展望と多様性

コンピュータシステムは、誕生してから現在に至るまで非常に様々な進化を遂げてきた。そして、まるで生物が単細胞生物から多細胞生物へと進化したように、コンピュータも相互接続を行うようになり、あるコンピュータの集合が一つの大きなシステムを構成するようになった。

コンピュータ性能の進化は日進月歩と言われるほど早いもので、特にムーアの法則に基づいたCPU性能の向上はめざましいものがある。ムーアの法則は現在でも健在であるが、最近はCPUクロックスピード向上は停滞しているし、半導体数が増えてもCPUコア一つあたりの性能があまり向上しないという問題が浮上してきている。このことは、これまでにない異常事態ではなかろうか。今までは半導体の製造プロセスを微細化することで半導体の集積度を高めたり、クロックスピードの向上により性能を向上させることが出来たが、そろそろ半導体の回路は原子のサイズが問題になるほどのレベルに近づいてきているので、製造プロセスの微細化は今後物理的に難しくなってくるだろう。

生物の細胞のサイズは10ミクロン(0.01ミリ)までしか大きくならない。生物の細胞が一定以上大きくなれないのと同じように、いずれコンピュータホスト一台の性能は限界を迎える日が来るだろう。そうすると、より大きな性能を持つシステムを構築するためには、複数のホストを用いて分散処理をしなければならない。従って、コンピュータ同士が相互接続を行ってさらに大きな計算能力を産み出そうとするのは自然な流れであり、複数のコンピュータを相互接続して大きなシステムを構築するのはその流れに従っているのである。

コンピュータ同士の接続には、実に様々な形態がある。典型的なサーバー・クライアント型から始まり、階層型、HAクラスター、グリッドコンピューティング、P2P、クラウドコンピューティング、SaaS等々と様々である。さらに最近ではWeb APIを介したマッシュアップまで存在する。マッシュアップは明らかにこれまでとは異なる階層での接続形式であろう。コンピュータ同士の接続方式が進化するにつれ、一つのシステムを構成するコンピュータの台数も増えてきた。大規模なサイトになると、数百台、数千台のコンピュータを使ってシステムを構築していることも珍しくない。数百台のコンピュータが相互接続というと、もはやスーパーコンピューターの世界である。

そのようなスーパーコンピューターレベルのシステムが数多く登場している背景には、単に膨大なトラフィックを捌かなければいけないという必要性だけでなく、スーパーコンピューターが手の届く存在になったということが要因として挙げられるだろう。具体的にいえば、例えば次のような要因によって、スーパーコンピューターが身近になったと考えられる。
  • ハードウェアの価格が下がってきた。(サーバ・ネットワーク機器)
  • 相互接続のためのミドルウェアが充実してきた。
  • 様々な相互接続のテクニックが編み出され、ノウハウとして蓄積されてきた。
Google、Yahoo!、Facebook、Mixi、Amazon、RakutenをはじめとしたWeb系の会社は、そのような巨大な(そして特定のサービスを提供するための)システムを用いてサービスを提供している。多くのコンピュータを相互接続することで大量のトラフィックを処理するという動きは、上記のような要因があるので今後もさらに加速していくことだろう。俺自身はそのようなシステムを実際に構築・管理した経験はないので(あくまでも一コンポーネントをサポートするだけで)実際に体験したわけではないが、中の人を見ているととても楽しそうである。

スーパーコンピュータに匹敵する規模のシステムを自らのテクニックで
構築したりチューニングしたりするのはやはりエキサイティングなのだろう。

しかし大規模なコンピュータが出現する一方で、小さなコンピュータも進化を繰り広げている。iPhoneやSymbian OS、Androidに代表されるスマートフォンやネットブックのように。特にAtom CPUなどは、このレンジのコンピュータにとても大きな飛躍をもたらしたのではないだろうか。かつてはノートパソコン一色だった領域が、かつてない多様性が広がりつつある。

大規模なコンピュータやその対極にあるごく小さなコンピュータだけでなく、中規模程度のコンピュータも多様性の広がりを見せている。その背景にはミドルウェアやアプリケーションサーバ、クラスタリングソフトウェア、データベース、Webサーバ、OS、ハードウェアなどが充実してきたという理由があるだろう。(その一方で需要のなくなった種の淘汰も進んでいる。Alpha CPUとか。)どこかのIT企業の偉い人が「コンピュータはクラウドだけになる」というようなことを言ってるのを見かけたことがあるが、その考えは間違いだと思う。生物が単細胞生物・植物・無脊椎動物からほ乳類までに至る多様性の広がりを見せるように、コンピュータシステムの多様性は今後も加速していくだろう。恐竜のようなメインフレームや大型のサーバは今後少なくなり、やがては絶滅するだろうが、中規模・小規模のHAクラスタや階層型システムは、今後も様々な場面でしぶとく必要とされ、生き残っていくだろう。

そして、一見ニッチなように見えるが爆発的にヒットするネットブックのような商品は、今後もなくならないだろう。そのようなことを想像すると、今後のコンピュータ業界が楽しみである。

生物は複雑に進化したとしても、その基本的な構造は変わらない。核があり、DNAがあり、細胞膜があり、動物であればミトコンドリアがあり・・・。そしてどのように多様な生態系を作り上げたとしても、決して単細胞生物はなくならない。それと同じようにコンピュータの基本的な仕組みは今後も変わらないだろう。だから、一エンジニアとしてこれからも基本を大切にしていこうと思う。

1 件のコメント:

  1. 投稿とかぶってもいますし補足でもあるのですが

    ムーアの法則は初期は
    性能が2倍となっていく
    でしたが、途中から
    価格が1/2になっていく
    と形を変え、まさに書かれているような歴史をたどっていますね。

    途中から
    価格が1/2になっていく
    と見方を変えたのは、強引なようでも昨今のWebの流れを予見したような変更でした。

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