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2016-01-13

残業は悪か?あるいは日本人の生産性が低い最大の理由

最近、残業をするのは社員が悪いというような記事を見たので、一言言っておこうと思う。

残業常習者が会社を壊す|トンデモ人事部が会社を壊す|ダイヤモンド・オンライン

なぜ残業が常習化するか


最初に結論を言ってしまうと、経営が悪いからだ。経営と言っても事業戦略ではなく、組織運営という意味での経営だ。残業が常態化しているということは、組織運営ができていないことの証拠だと言っていいだろう。

なぜ残業の常態化が経営の失敗だと言えるのか。残業が常態化しているということは、組織がこなすべき仕事に対して人員が足りないことが原因として上げられる。人材の確保に失敗しているのは、経営側の失敗だ。

もし社員がダラダラと残って働いているのだとしたら、社員が何をすべきかということがトップダウンで明確に指示されていない兆候かも知れない。何をもってその日の業務が終わりだ判断とすれば良いのか。それは上司からの指示、つまり担当業務の範囲と内容が明確でなければ、終わったという判断は難しいだろう。

社員に経営者の視点を求めるなかれ!

「社員一人ひとりが経営者と同じ視点を持て」というような標語を聞いたことはないだろうか。なぜか日本企業の現場では、そういう意識が常態化しているように思える。上司からそのような指示が出てくるのは、一言で言えば上司あるいは経営者側の怠慢だ。社員が経営者と同じ視点を持つのなら、経営者など必要ないではないか。

このようなマインドは必ず残業に繋がる。何故ならば、経営者と同じ視点を強いられるということは、業務内容が明確になっていないことを意味する。従って、経営者と同じ視点を持ったまま、降って湧いてくる業務に明け暮れることになる。そしてやっていることの実態は、経営者と同じ視点というような甘い言葉とは裏腹に、雑用だったりする。経営者と同じ視点を持てという言葉の裏には、経営者や上司が便利に使いたいコマが欲しいという本音が隠れているだけなのだ。そのような上司は、便利なコマは長時間働けば働くほど便利だと感じるだろう。だから残業は無くならない。

そもそもが、就業時間内は会社に居るべきという発想の裏には、社員は何にでも使える便利なコマであるという思想があるように思う。無計画な上司がアドホックな仕事を押し付けるためには、社員が常にオフィスに居なければならないからだ。

問題は、成果主義が徹底されていないこと

残業代という発送の裏側には、労働の価値は時間で測られるという考え方があるのは間違いない。残業というものを無くすには、その考え方を改める必要があるだろう。つまり、労働の価値は成果で測られるという考え方への転換、いわゆる成果主義だ。

労働時間ではなく仕事の成果でパフォーマンスを測定すれば、どれだけ会社に居て働いているかということは関係なくなる。当然ながら、上司はどのように成果を測定するかということを、定性的あるいは定量的な観点から測定する方法を提供しなければならない。可能な限り、定量的な測定法が望まれる。その場合、上司は部下に残業を命じてはいけないし、また、業務が早く終わった場合には時短も容認する必要がある。時間は成果とは直接的に関係はないからだ。結果は事前に合意した測定法によってのみ判断されるので、時短でサクッと帰っても不利益があってはならない。

時短を認めるというような就業規則がある会社はどれだけあるだろうか。もし、あなたの会社にそのような規則があれば、それは成果主義が徹底されているという証拠だ。

成果を適正に測れるか

ITエンジニアのように、業務にスキルが求められるものの場合、そのスキルを正しく測定できるかどうかという問題がある。そのような測定は誰にでもできることではなく、同様のスキルを持った人でなければ判断はできないだろう。

例えばデバッグの速さがそうだ。できるエンジニアは難しいバグに遭遇しても、サクサクと解析してしまうだろう。できないエンジニアであれば、難しいバグは永遠に解決できないかも知れないにも関わらずだ。労働を時間で測定すると、できるエンジニアは薄給に、できないエンジニアは高給取りになってしまう。だがこの場合、明らかに価値ある仕事をしているのは前者だ。バグ修正は早ければ早いほどよいからだ。

このような観点から、エンジニアのトップに立つものは、同じ組織の他の誰よりもできる人であるべきだろう。少なくとも、他者の仕事の価値を判断できる人でなければならない。また、CTOという立場の人は、できるエンジニアの象徴でなければならない。

残業代は悪か

少し古い記事だが、カルビーの会長が残業が常態化した経営に警笛を鳴らしているものを紹介しよう。

カルビー会長が喝!長時間労働が日本をダメにしてきた|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

この記事は途中まですごく良いことを言っていて、賛同できるので是非読んでいただきたい。ただ、結論が頂けない。

もちろん、工場などでは、勤務時間は関係ない、来る時間も帰る時間もバラバラというわけにはいきませんが、日本では成果で評価されるべき人が、時間で評価される仕組みになっていることが長時間労働の問題なのです。そして、このあしき文化の象徴が残業手当なのです。

成果で評価されないことが問題だというのはその通りであるが、残業手当が悪というのはいただけない。まるで残業代をもらう根性がダメだと言わんばかりだ。

残業代は、当初定められた業務時間を超えて働かないといけない社員に対する慰労の対価であり、適正な業務の割り当てができなかった会社側へのペナルティだ。特に後者は大事で、ペナルティを無くしてはならない。もし残業代を無くせば、多くの会社はたちまちブラック化してしまうだろう。ペナルティという意味では、残業代はむしろもっと高くても良いぐらいだ。

残業代が悪いのではない。残業の常態化は、あくまでも上司や経営者の手腕の問題なのだ。

経営者がITを知らない

エクセルで業務を効率化したら「ずるい」と言われたというような笑い話がある。全く持ってバカな話である。今どき、ITを使って業務を効率化しなければ、他社との競争に打ち勝つことはできないことは明白である。社員が積極的にITを使うことを推奨するどころか、使ったことをズルいというようなマインドでは、業務が効率化するわけがないのだ。

日本企業の圧倒的大多数は、経営者がITを知らないか、ITの活用法を知らない。そのため、経営がいつまで経っても効率化しない。その証拠に、業務システムはSIerに丸投げではないか。

業務が効率化しなければ、より長時間社員をこき使おうと考えるのは、自然な成り行きである。だが、本当に必要なことは、業務を効率化することで競争力を高めることであり、それに失敗した企業が淘汰されることだろう。しかし、日本ではなぜか不思議なことに、大企業は経営に失敗しても倒産しないらしい。経営者が責任を取ることすら稀である。社会へのインパクトを考えて、大企業を救うのは良いのだが、その場合少なくとも経営層や管理職は一新するぐらいのことはしたほうが良いのではないだろうか。

なぜ経営がダメなのか

この点については色々書くと面倒なのでひとつだけ。終身雇用かつ年功序列制で繰り上がって出世した人が経営するからだ。彼らは経営のプロではないし、自分たちがやってきたことと同じものしか、仕事のやり方を知らない。その結果、ITは活用できないし、成果主義へも移行できない。

新卒の給料が安すぎる

残業が常態化する理由のひとつに、若手による長時間の残業があるのではないだろうか。その理由として、若手の給料が安すぎるというものがあるように思う。給料が安いから残業をしてようやく一人前という状況だ。そりゃ、残業もしたくなるのは頷ける。

だが、そもそも若手(あるいは新卒)であっても、熟練者と同じだけの仕事をすれば同じ給料をもらうべきである。特に高度な専門職であればなおさらである。だが、実際には新卒の給料はずっと据え置かれたままである。

なぜ新卒の給料が安いままなのか。それは新卒の一斉採用、そして年功序列制の弊害ではないかと思う。勤続年数が増えればいずれ給料が上がるから、最初は安いままで良いという考え方だ。成果主義を徹底するなら、まずこの点を改めて、新卒と熟練者であっても、同じ仕事をすれば同じ給料が支払われるようにすべきだろう。当然、熟練者はより高いスキルをもっているはずなので、新卒よりずっと高度かつ多くの仕事ができるはずであり、現実的には同じ給料にはならないだろう。

とりあえず新卒の一斉採用はもう止めるべきではないだろうか。

結論:経営が悪い

最初にも書いたが、残業が常態化するのは経営が悪いからだ。決して社員の怠慢や残業代が悪いわけではないし、経営者はそれらを言い訳のネタにするべきではない。

残業の常態化を無くすには経営を改める必要がある。つまり、成果主義を実践し、社員が時短で帰れるよう就業規則を改め、スキルのある人材を重用し、ITをフル活用して業務を効率化することだ。また、企業を超えた話としては、悪しき慣習である年功序列制と新卒の一斉採用も止めるべきだ。これらがすべてできなければ、残業の常態化はなくならないだろう。

最後にもうひとつ、去年の記事を紹介しておきたい。経営の個々の問題が詳細に綴られている。(はっきりと経営が悪いとは言っていないが。)

勤勉さだけでは改善できない日本の低い労働生産性 | ロッシェル・カップ

1 件のコメント:

  1. おっしゃる通りだと思います。組織運営とマネージャ教育、これに尽きると思っています。
    「日本の労働生産性を上げる10の方法:脱社畜のススメ」
    http://www.mikawaya1960.blogspot.jp/2015/12/blog-post_24.html

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