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2011-09-27

珍しい病気にかかってあれこれ考えた話。

最近、とても珍しい病気を患った。プライベートな話で恐縮だが、そのことで色々と思うことがあるので綴ってみようと思う。

ことのはじまり

ちょうど今月の初めごろだが、突如として全身の筋肉や関節が痛くなった。特に激しい運動をした覚えはないのだが、なにやら筋肉痛のように痛い。いや、もっと痛い。そのような症状が手、足、肩、腰などに広がり、歩行すら困難な状態になってしまった。熱はない。インフルのような悪寒もない。何故かくるぶしから膝にかけて湿疹のようなものが出て痒かった。まいったな、痛みに加えて皮膚もやられたのかよ・・・などと考えていた。

痒みはともかく痛くて仕方がないので、近所の急患センターへ行って観てもらったが分からない。一見するとリウマチのような症状だが検査しないと分からない。急患センターでは分からないので大きな病院で診てもらったほうがいいとのことで、大学病院(自治医科大学附属病院)のリウマチ・アレルギー科の紹介状を書いてもらった。祖父が晩年リウマチで苦しんでいたので、自分がなってもおかしくないとは思っていたが、「この歳でリウマチはきついな、キーボードはちゃんと打てるだろうか・・・」などと考えて暗澹たる気持ちで帰路についたのだった。

診断結果

餅は餅屋というが、アレルギーはアレルギー科の先生に診てもらうのがいい。筋肉・関節の痛みと足の痒みは別の病気だと考えていたのだが、どうやらそうではないらしい。その先生が告げた病名は「シェーンライン・ヘノッホ紫斑病(アレルギー性紫斑病)」というものだった。子供に多く見られる病気で、大人がなるのは珍しいらしい。アレルギーによって毛細血管が脆くなって破裂し、それが皮膚周辺で起きれば紫斑となって現れ、筋肉で起きれば筋肉痛に、関節では関節炎を引き起こすらしい。ただ、症状は典型的だが皮膚を切って調べてみないと断定は出来ないとのこと。(後で皮膚科へ行って皮膚を切り取って調べてもらい、アレルギー性紫斑病であることが確定した。)

アレルギー性紫斑病の原因は不明。従って特効薬は無し。安静にするしかないとのこと。内蔵や膀胱で血管の破裂が起きると入院が必要だと言われたが、そこまで大事には至らなかった。膀胱にダメージは後遺症として残るらしいのでちょっと心配だったが、今のところ問題はないようだ。アレルギー性紫斑病自身による後遺症はないらしい。

ちなみに、このころは立つのすら激痛だったのだが、病名がはっきりしたことで心が晴れて、帰りは少しだけ足取りも軽くなったように思う。やはりメンタルは大事だ。

良書との出会い

病院の待合室で会計を待っていると、書店の看板が目に入った。しかも「専門書あり」との文言。医学において門外漢の筆者は非常に興味をそそられるではないか。どうせこの身体じゃ何も出来ないから暇つぶしのための本が欲しい。どれ、ひとつ医学書とやらを見てみようと思い、階下の本屋へ足を引きずりつつ入って行った。さすがに医学書は高い。コンピュータ専門書などは実用書に毛が生えた程度の価格だが、医学書はその10倍程度が相場のようだ。「どんだけ印税ウハウハやねん!」などと思いつつ眺めてはいたが、もちろん筆者は医者ではないので医学の専門書などを購入することはない。高いし。

一般書のコーナーを徘徊していると、一冊の本が目にとまった。



著者はあの「生物と無生物のあいだ」で有名な福岡 伸一氏だ。原因不明の病気に掛かったという経験は、筆者の脳裏に生命の謎とか科学が到達していない未知の領域への想いをもたらせてしまった。生命はまったくもって謎だらけだ。そんな状況でこのような書籍を見せられたら、買うしかないじゃないではないか。たまたま興味がそそられて入った書店でたまたま手にした書籍。そのような書籍が名著だから人生は面白い。

「動的平衡」は雑誌「ソトコト」で連載されていたエッセイをまとめたものだ。だから一貫したストーリーがあるというよりは、生命というテーマを設定して、四方山話をしているという感じだろうか。だが、一般人が生命の神秘に触れるにはとても良い本だと思う。最終章の一節「アンチ・アンチエイジング」は強烈なメッセージを放つ。人間の浅知恵で時間の流れに抗っても無駄だよと。病気の時にはおとなしくしてろってことだよ>俺

療養生活

アレルギー性紫斑病は、とにかく安静にしているしかない。土日はベッドの上で過ごし(息子は妻が面倒を見)、平日は自宅で仕事をするという日々である。こんなときはつくづく在宅勤務がOKな会社で良かったと思う。2度の買収を経て行き着いた会社であるが、制度をしっかりさせているという点については敬意を表すばかりである。

そのおかげで、症状は現在かなり落ち着いてきている。初期の頃は椅子に座っているだけでも足に紫斑が出来てしまったし(だから座椅子で足を伸ばして仕事をしていた)、立っていようものなら紫斑だらけになっていた。全身筋肉痛で歩くのもままならないという状態であった。初期の頃に写真をとってあるが、グロ注意なので掲載は控えよう。今は少し出歩いてもほとんど紫斑は出ないほどにまで回復した。この調子で完全に回復して貰いたいものである。

療養生活はかなり暇であった。「動的平衡」を購入したが、そんなので時間がもつわけがない。そんな時は自宅の書棚が強い味方だ。

生命の謎について考えるとき、つい書棚から手にしてしまう一冊がある。



もうこの本は何度読んだか分からない。大好きな本のひとつである。30億年以上続いた生命の歴史。常に地球環境の変化によって大量絶滅を余儀なくされてきた生命の歴史。それを想うと人間が如何に矮小なものかがよく分かる。2000万年続いた酸素欠乏「スーパーアノキシア」が今起きたらどうなるか。人類は生き延びることが出来るだろうか。

生命が進化する仕組みについても謎だらけである。ひとつ積ん読している書籍が書棚にあったので手に取ってみたが、これまた素晴らしい良書であった。



カンブリア時代の化石を多くふくむ「バージェス頁岩」を題材にした書籍であるが、全体的にはバージェス頁岩の発見を巡るとても情熱的なストーリーが描かれている。下手な小説よりよほど面白い。そして何よりも見事なのが冒頭でかなりのページを割いて訴えかけられている「先入観や線形的思考を捨てろ!」というメッセージである。「その通り!」と、思わず膝を打ってしまうほどである。

まとめ的なもの

不意に原因不明の病気にかかってしまった筆者であるが、幸いなことにしっかりと回復してきている。療養が出来るよう支えてくれた妻には感謝するばかりである。

病気にかかったことで、良書に出会い、生命について考える機会を持つことが出来た。紹介した書籍は筆者が良いと感じたものなので、ぜひみなさんも手に取ってみて頂きたいと思う。生命の仕組みは未だ謎だらけであり、人間は先入観や線形的な思考に支配されやすい。その矮小な思考で、全てを分かった気になるのは危険である。大いなる謎の前では、せめて謙虚で居たいと思う。

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