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2017-04-17

そろそろ「リカンベントそのものが直接の事故原因ではなかったという事実」について一言言っておくか

昨年、漫画家の方がリカンベント型の自転車を運転中に亡くなってしまったということを書いた。私はリカンベントを趣味としているのだが、この事故によってあまりにも「リカンベントは危険だ」というような論調でリカンベント型の自転車を批判するコメントが多かったため、それを弁護したい気持ちがあった。当然、どのような乗り物でも事故は生じるわけであり、リカンベントも例外ではない。だが、先月になって「司法解剖が行われた結果、死因は心筋梗塞だったということが分かった」というニュースが出ている。リカンベント型の自転車による事故ではなく、心筋梗塞の結果事故が起きたというわけなのだ。

酷かった偏見

リカンベント型の自転車というのは確かに珍しい。その奇抜なフォルムから注目も集めやすいのだが、至って真っ当な乗り物である。少なくとも普通のアップライト型の自転車と安全性の点で、そう大きな差はないと言える。(その構造上、リカンベントのほうが安全性の面で優位な点もあれば不利な点もある。優位な点は例えば重心が低いから前にすっ転びにくい、落車しても低いから衝撃が少ないなど。)

だが、ネット上で見かけたコメントはリカンベント型の自転車を批判するものばかりが目についた。良識派が集まっているとされるはてなブックマーク(1)(2)でも、以下のようなコメントがついている。
"あんなので公道走るやつ本当にいたのか"

"この型のチャリは車の運転してるとき見えなくて怖いんだよね。"

"どうみてもあれは危ない"

"安全性には欠けた乗り物っぽいんだが。"

"別に規制する必要なんてないけど通常の自転車より危険性は高そうだね"
当然ながら、このコメントのいずれも心筋梗塞に対するものとしては的外れであるのは明白である。敢えて言うと、印象だけでリカンベントを危険だと決めつけたうえでのコメントである。(心筋梗塞になるリスクが高くなるとでも言うのだろうか?後で述べるがそういう人も居たのは驚愕であるが・・・)

当然というべきか、2chでも相当叩かれていたようである。例えば、まとめサイトのひとつからいくつかのコメントを引用してみよう。
"アレあぶねーとは思ってたが死ぬのか "

"なんでこんなの販売許可出してるんだか。規制すべき。 "

"優秀な自転車だとは思うけど日本の公道で乗るには怖いわ "

"チャリのメットじゃ殆ど意味ないだろうなあ"

"めちゃめちゃ速いからなこれ
スピード狂みたいになってたんじゃないの

他から見えにくいし
あれで公道走るのは自殺行為といってもいいと思う "
繰り返しになるが、これらは心筋梗塞に対する批判としては全く的外れであると言える。余談であるが、心筋梗塞に対する注意喚起であれば、例えば「冬には暖かい部屋からいきなり寒い外へ出るな」とか、「暖かい風呂にいきなり飛び込むな」、「水分補給を怠るな」というようなコメントであれば正当性があるだろう。

今回の事故の原因が心筋梗塞であれば、リカンベント型の自転車そのものを叩くのは全くの筋違いである。にも係わらず、当時は激しいリカンベント批判が行われた。リカンベントを趣味とするものとしてはまったくもって釈然としないが、リカンベントは物珍しく、マイナーで叩きやすい対象だからこのような的はずれな攻撃が行われたのだろうというのは分かる。しかしそれはまさに偏見の構図ではないか。ただただ悲しいばかりである。完璧な人間というものは存在し得ないため、人間から先入観というものを全く取り去るということは不可能であると考えているので、的はずれな批判をした人を今さらどうこう非難するつもりはない。ただ、この記事を読んだ方には、あのような批判は偏見だったということを認識してもらいたいと思うのである。

どうしてもリカンベントを批判したい人もいる

漫画家の方の死因が事故でなかったということが判明したら、今度は「心臓にトラブルを抱えている人は、リカンベントに乗るべきではない」という根も葉もないことを言い出す人まで現れた。どうしても死因をリカンベントのせいにしたいのだろうか。記事によると、「登坂の時、下半身の大半が心臓より高い位置に来た状態」が良くないということが、主張の根拠のようだ。

今回の事件に限って言えば、以下のような理由から、その批判はまったく当てはまらないと言える。

第一に、漫画家の方が倒れていた場所は長い下り坂を終えたポイントであり、登坂時ではない。この点だけを見ても前提そのものが間違っており、論ずるに値しないと言える。ちなみに現場は国道24号脇の歩道である。国道24号は平坦な道であり、現場はその脇の坂道なのだが、国道24号側が高度的には下である。氏が倒れていた場所は脇道から国道24号へ入る直前だったので、下り坂なのである。万に一つぐらいの可能性として、国道24号から脇道へ入り、登坂を開始した直後ぐらいに心筋梗塞になって、意識がもうろうとしてハンドル操作が不安定になった結果、たまたま反対車線へ回りこんで倒れてしまったという可能性はゼロではないが、それでも登坂開始直後のできごとであれば、登坂の負荷によって心筋梗塞が引き起こされたと考えるのは無理がある。

第二に、リカンベントにも様々なモデルがあり、特にシート角には豊富なバリエーションが存在する。氏の愛車は、コンフォートタイプの、あまりシートが倒れていないタイプ(45°程度)のものであったということが判明している。そのようなモデルにおいて、足の大半が心臓より高くなるほどの坂道というのは、一体どれほどの傾斜でないといけないのだろうか。最大傾斜勾配31%を誇る暗峠であればまだ話は分かるが、現場はもちろん暗峠ではない。いくら暗峠と言えど、勾配31%は、角度で言えば17°程度なので、シート角45°の車体であれば、胴体はまだ28°程度の角度を保っているわけだが、これは「下半身の大半が心臓より高い位置に来た状態」と言えるのだろうか。まして、国道24号沿いの坂では、言わずもがなである。

第三に、そもそも寝そべった姿勢は果たして本当に心筋梗塞になりやすいのだろうか?という疑問がある。リカンベント型の自転車以外で、水平に近い体勢で強度の高い有酸素運動をする競技としては、水泳が挙げられる。だが、水泳が心筋梗塞を誘発するというのは聞いたことがない。(水泳中の脱水症状によって心筋梗塞になるというのはあるが。)むしろ、水泳は心臓のリハビリに良いとされているぐらいである。自転車も心臓のリハビリに良いようである。常識的に考えると、直立姿勢よりも腰掛けた姿勢、あるいは寝そべった姿勢というのは心臓の負担が少ない。直立時よりも全身に血液を循環させるための負担が少なくなるからだ。(むしろ少なすぎてその姿勢ばかりだと色々弊害がおきるぐらいだ。)なので、リカンベント乗車時の心臓の負担は、異様に頑張って漕いだりしなければ、実はとてもマイルドなのである。

果たしてリカンベントが心臓に良くないという主張は正しいのだろうか?水泳に関してはどうだろうか?私は当然「そんなワケがない」と考えているのだが。

まとめ:リカンベントは危険な乗り物なのか?

昨年の死亡事故の原因はリカンベントという乗り物の特性に起因するものではなかった。このことはもっとよく知られても良いように思う。事故発生直後は、リカンベントは危険だという批判がとても多かったが、事故原因が心筋梗塞である以上、その批判は的外れなものであると考えざるを得ないだろう。

ある乗り物が危険かどうかは、たった一件の事故からは判断することはできない。本来は、どのように安全だと考えられる乗り物でも、まったく事故を起こさないということはあり得ないので、危険かどうかは統計的な手法で他の乗り物と比較した上で判断する必要があるのだが、残念ながらリカンベントについては今のところそのようなデータは存在しない。(海外では日本よりずっと多くのリカンベントは多数走っているが、リカンベントの事故率がアップライトの自転車より高いという話は聞いたことがない。統計とまで行かなくとも、問題になっているという話も聞かない。)そして、今回はその一件の事故すらリカンベントという乗り物の構造が、事故の直接的な原因だったということが否定されてしまった。マイノリティ故に批判されやすいリカンベントであるが、どうか印象だけで批判することは止めて欲しいと思う。

とは言え、今後もそのような印象による批判が止むことはないということも分かる。どれだけ説明しても、聞く耳を持たない人も大勢居る。そして私は、偏見や先入観といったものを払拭するのが如何に難しいかということを、思い知ることになるのだろう。

だが希望そのものは捨てて居ない。文明は徐々に発展し、人は昔よりずっと賢くなっているからだ。もちろん完璧ではないにしろ、人類の文明は確実に前進している。今後もその傾向は続くことが予想されるし、そうすれば偏見や先入観に囚われる度合いも徐々に低下していくと信じている。そして、いずれリカンベントに乗っていても後ろ指をさされることがない世の中になることを、欲して止まないのである。

以下余談。

リカンベントは楽しい乗り物なので、興味があればぜひ乗ってみて貰いたいと思う。リカンベントは価格が高いのが欠点だが、技術の進歩によって価格も徐々にこなれて来ている。関西方面の方なら、来月にリカンベントオフが鶴見緑地で予定されているので、予定が合えば行ってみて欲しい。関東方面の人は、NiKIRIN工房日記でリカンベントファンデーが告知されるのを心待ちにして欲しいと思う。

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